ベニスビーチは、ロサンゼルスで人気の定番観光スポットです。
わたしも、日本からお客様がくると、必ずといってよいほどお連れする場所です。
そんなベニスビーチには何度も行ったことがあるのですが、割とヒッピーっぽい雰囲気があふれていて、どちらかといえば、若者向き。決して年配の方が大喜びするような場所ではありません。
しかし、母はどうしてもそこに行きたいのだとか。聞くと、「米粒に名前を書いてくれるお店がある」というではありませんか。 米粒に名前を書き、ペンダントにしてくれる……というのです。
どうも、日本でロサンゼルスを取り上げた英語教材に出てきたようで、それが、どうしても欲しいと言うのです。
うーん。 米粒に名前ねぇ…… 聞いたことない。
LAっ子である彼女に聞いてみても、「知らない」ということ。
日曜日のベニスビーチには、確かにたくさんのアーティストが露店を出し、パフォーマンスをしたり、手作りのアートを販売しています。しかし、彼らの多くはヒッピー的であり、常にそこにある保証はありません。母に聞くと、その英語教材はもう数年前に目にしたものなのだとか。一体今もあるのでしょうか?内心かなり不安になりましたが、まずは現地に向かうことに。
ヨットハーバーの広がるマリナ・デル・レイから、さっそく散歩を開始。遊歩道沿いには、ユニークなデザインのビーチハウスが立ち並んでいます。どれもこぶりな家なのですが、超高額。レンタルすると一泊1000ドル以上余裕でします!宝くじに当たったらどの家を購入しようかな……そんな妄想を楽しみながら、サンタモニカ方面に歩いていきます。
ベニスビーチに近づくにつれ、Tシャツやビーチサンダル、スケートボード……さまざまな土産物屋が表れ、賑やかになってきます。
砂で出来た銅像や、自分の名前を入れてくれるマグネットやキーホルダー。など見ているだけで嬉しくなります。残念ながら「写真撮影お断り」のブースが多いので、全ては紹介できないのですが……。母はまるで子供のように、ひとつずつはしゃぎながら見ています。「わあ、これはいくら?」「じゃあ二つで五ドルでいいよ!」「四ドル!」値段交渉もお手の物。母は、まるでガラクタのような土産物をいくつも買い込むのです。
シュワルツネッガーもかつてトレーニングのために通ったという「マッスルビーチ」や、医療用大麻が貰えるクリニックなどを通り抜けていきます。時折、鼻先をくすぐる甘い芳香にも、母は気づく様子もありません。
ひと通り、ベニスビーチの中心街を見終わり、カフェに入って休憩することに。ふぅ……。チリソースがたっぷりかかったアメリカ〜ンなテイストのフレンチフライを食べていると、母の好きなイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」が流れてきました。
Welcome to the Hotel California, Such a lovely place, such a lovely place, Such a lovely face Plenty of room at the Hotel California, Any time of year, any time of year, You can find it here…♪
おそらくこれは母にとって最後のロサンゼルス訪問であるだろうと考え、わたしは少しセンチメンタルな思いに襲われていました。睡眠不足気味だったのかもしれません。母の探していた「米粒ネックレス」の露天が見つからなかったことも関係してるかもしれません。ホテル・カリフォルニアのギターに合わせて何かわーっと泣きたくなるような気分でした。
「……そろそろ、帰ろうか!不動産を見なきゃいけないし」
「ロサンゼルスの家を見たい」と言う母のために、いくつかオープンハウスを回ろうと思っていたのです。
来た道を引き返しながら歩いていると……アッ!
Name on Rice (米粒に名前)という文字が目に飛び込んできました。
あまりに小さくて、わたしも彼女も見逃してしまってましたが、確かにこの土地に根ざしていることを示すサイケでピースフルな露店!もう何十年もこの土地で米つぶ露店を営んでいるオーナーのビビアンさんは、ベニスビーチを描いた壁画にも登場するほどのローカル有名人。バインダーにはベニスビーチを訪れたセレブリティーたちとの写真がびっしりファイルされています。
日本の英語教材に出たときのことも覚えているそう。ちゃんとその場で名前を書いてもらい、好きなボトルを選んでネックレスにしてもらいました。大喜びでビビアンさんと写真を撮っている母を見ていたら、ホッとしました。ビビアンさん、今日もちゃんとお店を出してくれていて、どうもありがとう。
もし、ベニスビーチを訪れるときは、この小さな露店を探してみてください。