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#あたシモ

虹の向こう側

空の飛び方

photo by plus45

身体を動かしたので心地よい倦怠感に包まれている。程よい疲労はある意味陶酔に近い。

身体を動かしてると、心が無になるようで、実はいろいろ考えが深まっている。ある意味瞑想状態に近い。ただひたすら肉体の感覚を研ぎ澄まし、地面の傾斜と疲れ具合に気を配りながら、流れる景色を眺める。

カリフォルニアの太陽が容赦なく照りつける。牛と、馬がのんびりと草を食んでいる。時折、猛スピードで追い越していく。道端に置かれた花束。虫の音。アスファルトとゴムの擦れる音、そして、自分のハーッハーッという呼吸音だけが聴こえる。

キレイだ……そう思っても、止まって写真を撮ることはせず、走り去る。

この道をまた通ることがあるだろうか?かなりの確率でもうない気がする。またここに来るとしても、その時、こんなに黄金色の光で溢れているとは限らない。周りには誰もいず、わたししかいない。後ろを振り返っても誰もいない。なのに、わたしはチャンスをみすみす逃している。

数年前まで、旅先でもほとんど写真を撮らなかった。記録も付けなかった。でも、そのおかげで、どこに行ったのかほとんど忘れてしまった。どんなに小さなことでも、その時感じたことを書いておけばよかった……。そんな風に思うようになった。

自分のペースで進むのが好きだ。誰かに合わせて行くのも楽しい。でも、普段人に合わせてばかりなのだがら。わたしは自分の力を試したい。新しい筋肉の使い方と、呼吸方法を試したら、驚くほど軽く早く遠くまで行けることに気づいた。それに、十分な速度を必要なだけ保ったら、ちょっと息を吸い込んで止めている間に、空を飛ぶこともできる。でも、それはたった一人で、自分の限界まで速度を上げないと体験できない。セオリー通りではないしコーチは怒るし彼女は不愉快になるだろう。

それでも、ちょっと空を飛ぶ快感には代えがたい。丘を越える。牛がチラッと空を見上げる。ビーチへ向かう車がズラーッと渋滞している。道路もコースも関係ない。管制塔の電波もここには届かない。重力から解き放たれた達成感でいっぱいになる。

しかし、忘れてはいけないことがある。どんな素晴らしい浮遊も必ず落下を伴う。耐えがたい眠気を伴う疲労が、わたしたちの肉体を地面へと叩きつける。アウチ。

……そういうものだから仕方ないよね。

苦悩にのたうちまわり、調子に乗ったことを深く悔やみながら回復を待つ。サマータイムの太陽は、まだ空高く、黒く湿ったアスファルトをヤキツケテイル。

息が出来るようになったらまた飛びに来よう、何度でも。鷲ではなく群れになって飛ぶ小鳥のようにしか飛べない。でも小鳥には小鳥の強さがあり、美しさがある。