#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

NY・1人用のトイレを全て「ジェンダーニュートラル」へ /「誰でもトイレ」はなぜこんなに重要なのか?という話

f:id:calibaby:20150913144621j:plain ↑ウェスト・ハリウッドにて撮影

ニューヨーク市の新しいポリシー

ニューヨーク人権委員会は、トランスジェンダーの人々の権利に関する2002年の法を改めて見直し、トランスジェンダーの権利をよりしっかりと保護するようにというポリシーを発表しました。特に注目すべきはトランスジェンダーの人々に対して、トイレやロッカーへのアクセスを拒否することは違法」と明記されている点と、「今存在するトイレすべてをジェンダーニュートラルにする必要はないが、一人用のトイレはすべて明確にジェンダーニュートラルなトイレとすること」とされている点です。この変更は、ビル・デブラシオ市長の意向を受けていると思われます(参考記事)。

実利面だけでなく、シンボルとしても重要な「トイレ問題」

今回のポリシー変更は、トイレ問題の他にも「大家や従業員は、トランスのスタッフに対して望みの性代名詞を使わなければいけない」とかいろいろあるんです。でも、LGBT系メディアで一番大きく報じられたのは「一人用トイレは、すべてジェンダーニュートラルトイレとする」ということだったように思います。

シスジェンダーの人にとってはジェンダーニュートラルトイレは、あってもなくてもよいものかもしれませんが、実は「トイレ問題」はものすごく重要です。まずトランスジェンダーの人にとって「毎日使うトイレの使いづらさ」が切実な問題であるからですし、さらには「トイレ」をテコにして、LGBTだけでなく、女性障がい者を含む少数派の権利保障がそっくり覆されてしまうケースがあるからです。

ヒューストンで行われた「トイレプロパガンダ」

去年の11月、テキサス州ヒューストン市でHouston Equal Rights Ordinance(ヒューストン平等権利法:通称HERO)を否定するという「プロップ1」が住民投票にかけられるという事態が発生しました。

HEROは人種、民族、国籍、年齢、結婚の有無、性別、性指向、性自認、宗教、軍隊経験の有無、障がいの有無など様々なステータスによる差別を包括的に禁止するものでした。ヒューストン市の市長アニース・パーカーは、レズビアンであり、ヒラリー・クリントン、バーニー・サンダースなどの民主党の大統領候補者やホワイトハウスAppleをはじめとする企業、さらにはアカデミー賞受賞女優サリー・フィールドGLEEマシュー・モリソンマット・ボマーをはじめとする著名人もこぞって「HEROを保持するように!」と訴えました。しかし、結果的には、ヒューストン市の住民は61%対39%という大差でHEROを否定する道を選んでしまいました。テキサス州には州レベルの差別禁止法がないため、ヒューストンには性指向や性自認を含む差別禁止法がない状態となってしまいました。テキサス州でも、ダラス、オースティン、フォートワース、プレイノ*1などの主要都市は皆差別禁止法を持っています。

どうしてこんなことになったのでしょうか?

反HERO派は、問題を「トイレ」問題に矮小化し、「HEROのおかげでトイレに男が入ってくる!」「性犯罪が起こる!」という恐怖を煽るような宣伝を繰り返したのです。実際にはHEROはLGBTに限らず、他の15にも及ぶ様々な少数派の人々に対する差別を禁止するという包括的な差別禁止法であるにも関わらずです。

これはトランスジェンダーが自分に適したトイレを使うことによって子供が性犯罪に巻き込まれる!という恐怖を煽っています。実際にはこのような事実はなく、トランスジェンダーを含む反差別法を持ち、ジェンダーニュートラルトイレの設置を義務付けたアメリカの12州の警察や政府関係者に取材しても、差別禁止法やジェンダーニュートラルトイレによって性犯罪が増加したという事実はありません。差別禁止法を持つテキサス州の他の市からも同様の返答が来ています(参考記事)。

また、アンチLGBT団体が例として上げた「学校でトランスジェンダーを名乗る男が女性トイレに紛れ込み、女子生徒に性的嫌がらせをした」という事件は、保守系メディアでよく語られますが、トランスジェンダーの活動家が実際にその事件の報告書があるのか確認したところ、実際にはこの話を報じたジャーナリストは事実確認をしていなかったことを自ら認めました(参考記事)。しかし、その後もこのような話は「都市伝説」のように語りつがれています。

「誰でもトイレ(ジェンダーニュートラルトイレ)」が象徴するもの

人々が性犯罪に対して感じる恐怖はリアルなものですし、ジェンダーに関わらず皆が使える安全なトイレがあることはとても大事です。でも、上で述べたように、差別禁止法があっても、性犯罪は増えたりしませんし、逆にLGBTを含む差別禁止法を撤廃しても、トイレが安全になったりはしません。生きづらくなる当事者が増えるだけです。誰もが毎日使うトイレへのアクセスを否定するというのは、差別以外の何者でもありません。誰もが安心してトイレを使えるために、安全を確保するための施策は「差別禁止法を撤廃する」とか、トランスジェンダーを排除するという方法ではなく、もっと実効的な方法で行うべきです。トランスジェンダーは既にわたしたちの生活のなかに共に存在しているのであり、ポリシーによって彼らを「排除」することなどは現実にはできないのです。

トイレをジェンダーニュートラルにするだけで、「差別のない街」が実現するわけではありません。でも、誰でも使えるジェンダーニュートラルなトイレがしっかりある街は、トランスジェンダーだけでなく介護が必要な人や子供連れなど、多くの人にとって生きやすい街なのだと思います。

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*1:北米トヨタ本社の移転先であり、今後日本人が多くなると思われる街です