#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

#BernieOrBust(バーニーか破滅か)「クリントンには絶対入れない」と言うサンダース支持者の傲慢

大統領選挙は、共和党がドナルド・トランプ、民主党はヒラリー・クリントンで指名候補が固まりつつあります。一気に11月の一般選挙に向けた「NeverTrump(トランプを阻止しよう)」という声が高まるなか、サンダース支持者による「#BernieOrBust(バーニーか破滅か)」という運動が注目を浴びています。

今回の大統領選挙で躍進を遂げた候補者は、ドナルド・トランプにしろ、バーニー・サンダースにしろ「反エスタブリッシュメント(既得権層)」という共通点を持っています。彼らの目から見ると、元ファースト・レディであり、上院議員、国務長官、と長い間に政界におり、ウォール街や大企業から巨額の寄付金を受け取っているクリントンは「エスタブリッシュメント」そのもの。

サンダース自身は、もしもクリントンが民主党の候補になれば、彼女を支持すると述べていますが、支持者はそうとは限りません。 3月上旬に行われた世論調査では、サンダース支持者の実に3割が、一般選挙でクリントンに投票しない、という結果が出ていました(参考記事)。

「#BernieOrBust(バーニーか破滅か)」や「#NeverHillary」というスローガンを掲げて、ヒラリーには投票しない旨を明らかにしているサンダース支持者のツイッターをちょっと見てみると、以下の様な感じです。

「クリントンは、トランプと同じくらい悪い候補者」「クリントンには絶対投票しない」というような論調が目立ちます。また、SNSやブログなどを追うと他にも、クリントンの外見に対する揶揄やまるで憎しみとも思えるような呪詛が目立ちます。かなり下劣なコラ画像や、汚い言葉による罵声も見かけて、わたし自身はサンダース支持者にかなり近い立ち位置にいるのですが、それでもちょっとゾッとしました。

なかにはこのようなハッシュタグや論調を「皆、適当に言ってるだけ。『カナダに引っ越す!(何か不満があった時にアメリカ人がよく言うセリフ)』みたいなもんだから」と文字通りに捉えるべきではないとする人もいますが、問題は、その発言をする人が本気でそう思っているかどうかではなくて、そのような発言が許され、なかには明らかに女性へのヘイトスピーチと言えるようなものまで入り込んでいるのが大きな問題なのだと思います。

もし「サンダースが民主党の指名を取れなかったから」という理由で、「サンダースでないなら、トランプもクリントンも同じ。もう共和党の大統領でいいや」と、民主党に投票することを放棄するのは、本当に大きな問題を見過ごしていることになります。

トランプはこれまでに以下の様な政策を口にしてきました。

  • 40ビリオンドルをかけて、メキシコ国境に壁を作る
  • 市民ではないイスラム教徒を強制退去する
  • イスラム教徒のコミュニティを監視する
  • 強制収容所という考えかたを否定しない*1

他にも女性に対する暴言なども有名です。

yuichikawa.hatenablog.com

最近でこそ、トーンダウンし、過激さが薄れてきているとはいえ、問題なのはトランプ個人だけではありません。共和党のすべての候補者は同性婚に反対してきました。今、「宗教の自由」に名を借りたLGBTQ差別的な法律を各地で推し進めているのも共和党です。すべての共和党の候補者が、中絶を制限することに制限し、オバマケアによって可能になった国民の医療へのアクセスへの道を閉ざすという公約を掲げていました。

ヒラリー・クリントンはこれらの政策に反対し、女性、LGBTQ、移民の権利について戦ってきました。もちろん、そのタイミングが遅いだとか、エイズ危機についての歴史認識などが批判されたりもしました。サンダースは民衆から少しずつのお金を集めることに成功したのに対し、クリントンがウォール街からの巨額の献金を受けているのも事実です。「信用できない」という人の気持ちもわからないではありません。

しかし、彼女は、実際に同性婚支持を表明し、またエイズ対策に対しても実際に寄付をし、健康保険の問題にも古くから取り組んできています。批判に対応して過去の過ちを認める柔軟さ--これも政治家としての上手さかもしれませんが--もあります。これらの実際の取り組みを見れば、クリントンは「トランプと同じくらい悪い候補者」では全然ないです。もしそう思えるのだとしたら、その人はLGBTQの権利や、女性の権利、エイズ対策、移民の権利…などについて、直接的にさほど影響を受けない立場にいるのかもしれません。これらの少数派の権利についての政策の違いを無視して「どっちも同じくらいダメ」などと言ってしまえるのだとしたら、それはその人は「恵まれている」のに加え、「そのことに無自覚」なのです。彼らはおそらく自分で自覚はしていないでしょうから、「恵まれてる」という言葉に反発するでしょうが、これは「恵まれていると思うかどうか」という意見の話ではなく「少数派の権利擁護を無視できる=少数派の権利擁護の有無によって影響を受けない立場にいる」という端的な事実を示すものです。

もしも、アメリカ社会で何らかのマイノリティとして生きているのだとしたら、クリントンとトランプが「同じくらい悪い候補者」などとはとても言えないはずです。

*1:アメリカが第二次世界大戦中に行なった日系人の収容は、アメリカではホロコースト、奴隷制などと並び、「恥ずべき歴史の汚点」として共通認識があるものです。詳しくはこちらのサイトを観てみてください。http://www.janm.org/jpn/nrc_jp/accfact_jp.html