#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

自殺未遂からCEOへ。世界初のFTMボディービルディング大会を始めた男の物語

かなり感動したので抄訳にて紹介します。


4年前、ジョージア州の大学街。ネオ・サンジャ(Neo Sandja)は酔っ払って、車の前に飛び出ました。死のうと思ったのでした。

「友達と酒を飲みにバーにでかけた。そして、最後にこう言った。じゃあな。もう二度と会わないだろう。でも、友達も皆酔っ払っていたので、誰も真剣には取りませんでした」

高速で通り過ぎるヘッドライトの光。「もう、これで終わりにするんだ。もう、これ以上ここにはいられない。これ以上苦しんで何になる?」

道路に飛び出したネオの前で車は停まり、車から警官が出てきました。

「死のうとしたのか?」

「そうだ」

「助けが必要なのか?」

「そうだ」

ネオは、自分がトランスジェンダーであることに気づいたことを警官に語り、アフリカにいる父親は彼のことを絶対に男だとは認めてくれないだろうと説明しました。すると警官はこう答えたのです。

「自分の妹はトランス女性だ」と。

憎しみから希望へ

2014の、ナショナル・トランスジェンダー差別調査によれば、トランスジェンダーや、ジェンダーを決めない人々の間の自殺率は非常に高いです。

41%の回答者が、自殺を試みた経験があると答え、これは全米全体の4.6%と比べるととても高い数字です。多くのトランスジェンダーは深刻な孤独に苦しみ、自らのアイデンティティーを表現するのに苦しみます。多くの場合それが彼らの属するコミュニティーのジェンダー観と食い違うためです。

トランスジェンダーの人が自らの体を受け入れる手伝いをするために、ネオは2012年に「FTMフィットネスワールド」を設立しました。この団体は、世界初の(そして今のところ唯一の)トランスのボディービルディング大会を開催しています。

CEOとして、ネオは多様性、そして「弱さの中にある強さ」を主張します。ボディービルディングの選手は、必ずしも自信があるとは限りません…しかし彼らは自分自身のアイデンティティを持っているのです。

コンゴ民主共和国で育ったネオはLGBTについては、何も知りませんでした。しかし、いつも、自分が男の子であると思っていました。

女性の体で生まれたのに、一度も自分が女だと思ったことはありません。スカートやドレスを着たこともありません。髪はいつも短く、友達は男の子ばかり。彼は自分はレズビアンだと思っていたが、惹かれるのはいつもストレートの女性ばかりでした。

思春期になると、ネオの体は男友達とは違って見えるようになりました。

「僕の体は、変わっていた。胸は膨らみ、生理が始まった。初めは自転車で傷ついたんだと思った。家に急いで帰り、僕は混乱して泣き続けた。」

彼を本当に理解していたのは妹だけだと感じていた。彼女は、ネオが16歳の時に亡くなりました。

「僕のことをお兄ちゃんと呼ぶのは彼女だけだった。その意味はよく考えなかったけれど」

教会では、人々はネオの母親に尋ねました「どうして、彼女はいつも男の子みたいな格好をしているの?」母親にとってもこれは説明が難しい質問でした。ましてや周りの人は理解ができなかったのです。

「西洋諸国では、宗教界においても人々がもっとLGBTに対してオープンになっていたけれど、アフリカでは、状況はより悪くなっていった。LGBTであることで、死刑になることだってあるんだ」

アフリカ諸国ではこれは、大げさなことではなりません。人権擁護団体、アムネスティー・インターナショナルによれば、アフリカの36カ国で同性愛が違法です。モーリタニアでは、同性愛行為で有罪となったイスラム教徒の男性は、石打ちの刑によって死刑に処される可能性があります。スーダンでは、同性愛行為に対する罰は、長期に渡る収監から、ムチ打ちまで幅広く、3度目の有罪判決を受けた段階で、死刑になる可能性があります。

コンゴ民主共和国では、同性愛は明確には違法とされていません。しかし、LGBTであることは、非常なタブーです。ネオが教会の合宿に参加していたあるとし、誰かが聖書と同性愛についての話題を出し、彼は、皆の目線が自分に集まっているのを感じました。。

「彼らがこの話題を僕がいたために持ちだしたのはわかっていた。僕が人と違うことは明らかだったから」

教会の指導者は「今日があなたの悔い改めるチャンスです」と子どもたちに語りかけました。

また2002年には、ネオは、キンシャサ((コンゴ民主共和国の首都))のコンゴ・アメリカン・リーグのバスケットボールチームの選手でした。チームは、ネオをカウンセラーに送りました。教会の隅で、カウンセラーに、彼は女性が好きなのだと告白しました。まもなく、15人の教会の長老たちが彼を取り囲み、彼らは恐怖に震えながら、ネオを同性愛から救うために祈り始めました。

「世界全体が、僕に自分が誰であるとか、どんな服装が好きだとか、どんな話し方をするか、どうやって歩くか、誰を好きになるか、そういうのは全部間違っていると言ってきていた」

家に帰った後、ネオは、カウンセラーのアドバイスに従い、妹のドレスを身に着けてみた。

「兄にどう見えるか聞いたら、答えは『二度とするなよ』だった」

ネオは、この問題は、スピリチュアルな問題ではなく、医学的な問題なのだと考えはじめました。そして、アメリカに行けば問題が解決されると分かっていたのです。

 アメリカへ

ネオはアメリカに学生ビザで到着しました。ルター派の私立大学は、彼を女子寮に入れました。もしも女が好きだとバレたら、追い出されるのではないかと恐れた彼に、カウンセラーは、彼が学校の牧師に相談することを勧めました。

「カウンセラーと牧師と僕は、皆違う長椅子に腰掛けていて、話しているのは僕だけだった」

彼は、牧師が、いつ怒りで逆襲してくるかと恐れながら、彼女の反応をうかがっていました。しかし牧師はこう言ったのでした。

「ただ、ありがとうといいたいのです。正直になるのはとても大変だったことでしょう。あなたは安全な場所にいますよ。そして、神様があなたをこのようにおつくりになったのであり、あなたが悪いのではないのです」

ネオはとても驚きました。生まれてはじめて、キリスト教の人が、自分自身を受け入れるようにと言ったのです!それはほっとするような瞬間でした。

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数年後、大学でのガールフレンドが映画『ボーイズ・ドント・クライ』を持ってきました。これは秘密を知られてしまったために地元を去らなければ行けなかったFTMを主人公にした話でした。

「初めて、キャラクターに本当に親近感を覚えた。『自分はこれなんだ』と」

一週間の間、ネオは眠れませんでした。調べれば調べるほど、この説明は自分自身に当てはまっているように思えました。父親が絶対にこれを認めないこともわかっていました。彼が自殺を決意したのはこの時でした。

警察官が、ネオを助けだした後、彼は5日間入院し、性同一性障害(現在では性別違和(gender dysphoria)の方がより一般的)の診断を受けました。彼は病院から母親に電話しました。

「死んだ娘より、生きている息子の方がいいよ」と母親は言ってくれたのです。

診断と多くのサポートを得た彼は、突然、これで新しい人生を始められることに気づきました。その年の後半にはホルモン療法を始め、名前を「ネオ」に改名しました。アフリカのツワナ族の言葉では「贈り物」という意味であり、ギリシャ語で「新しい」という意味を持つ名前です。

ビジネスの誕生

ネオの体は変わり始めました。はじめは少しずつ。ひげが伸び、声が低くなり、かすれ始めました。

「笑うと声がかすれたりしたんです。一度、母親が電話をかけてきて、僕が出た時、母親や弟が出たと思ったようでした。それから体重も増えました。3ヶ月で13キロも増えたんです!いつもお腹が減っていて、まるで10代の少年のようでした。すごく気分はよかったです。より幸せに、より強くなるのを感じました。よし、これでデパートの紳士服コーナーで誰にも変な目で見られずに買い物ができる!と」

ホルモン療法後の急激な体重増加が、彼をフィットネスに駆り立て、彼は「FTMフィットネス」というブログを作りました。2ヶ月後800人以上がフェイスブックで彼をフォローしていました。インド、オーストラリア、メキシコ、フィリピン……世界中からEメールが届くようになりました。ネオはこんなにも多くの人が「間違った」体で生まれていることに気づいたのです。

そのブログは、すぐに身体だけでなく、心の知能も含む「体全体の健康」のためのリソースとなりました。ネオは、ドメイン登録料を払うために、オンラインストア部門を立ち上げ、こうしてビジネスが誕生したのです。この会社は2014年にアトランタで、初めてのコンファランスを開催。メインのイベントは、世界初のトランスジェンダー・ボディービルディング大会でした。2015人には120人以上が参加し、2016年にはこのコンファランスをトランス女性も含むものへと広げたいとネオは考えています。

現在、ネオはジョージア州アトランタに住み、ライフコーチ/モチベーショナルスピーカーとして働きながら、初の著書『正しい心、間違った身体:満ち足りた人生を送るための完全なトランスガイド』を執筆中です。

ネオの父親はまだネオのことを受けいれておらず、彼らが最後に話したのは2011年、ネオが彼に性別移行をすすめることを伝えた時です。しかし、コンゴ民主共和国にいる仲の良い数人の友達とは連絡を取り合っていますし、また母親とも、週に2回は話しています。

彼は、トランスジェンダーのコミュニティが差別や憎しみ、そして暴力にさらされるのは、多くの場合メディアがこれらの人々をネガティブに、まるで見世物日のように扱うからだと言います。

「毎日の生活のなかで、溶け込んで単なる普通の男として生きていくのは簡単だ。でも、僕にとって、フィットネスやボディービルディングの世界の中で『見える存在』になることは大事なんだ。そのことによって、『普通』になることもできると同時にトランスであることを誇りにも思えると、わかってもらえるんだ」


原文はThe world's only transgender bodybuilding competition - CNN.comをご覧ください。

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