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アメリカで働くレズの徒然

「カリフォルニアに帰れ!」今、オレゴンに何がおこっているのか?そして知られざるオレゴン州の成り立ち

近年のオレゴン州(というかポートランド)ブームで、多くのカリフォルニア人が、オレゴン州に引っ越しています。その結果、オレゴン州の不動産価格は高騰し、反発した地元住民たちが、移住者に対して「カリフォルニアに帰れ」というメッセージを投げつけるような自体が生まれているそうです。

南カリフォルニアからポートランドに引っ越した住民の車に書かれたメッセージ

南カリフォルニアからポートランドに引っ越した、プレストン・ペイジさんと、ジェシカ・ファラデイさんの車(プリウス!)にはある日以下のような落書きがされていました。

「カリフォルニアに帰れ」「ポートランドから出て行け」

2人は、その前日に狭い道で運転を巡って言い合いになり「カリフォルニアに帰れ!」と叫ばれた男が犯人だろうと思っているそうです。

'Go back to California!' graffiti on car, house stuns new arrivals, highlights old tensions in Portland | OregonLive.com

オレゴンとカリフォルニアの微妙な関係?

keep_portland_weird

自由闊達な文化、温暖な気候、そして豊かさのため「黄金の州」と呼ばれているカリフォルニア州ですが、オレゴン州は「ポートランドは変なままでいよう(Keep Portland Weird)*1」というモットーにも見られるように、「カリフォルニア化はしない」という独自の路線を進んできました。

60年代初頭には既に「オレゴンの人口増加を防ごう」という目的のもと、スチュワート・ホルブクックにより「James G. Blaine Society」という団体が結成されました。James G. Blaineは、メイン州選出の連邦議員で、1884年には大統領選挙に出馬したものの、オレゴン州に一回も訪れなかったことから「オレゴンに来ない人」の象徴として選ばれたそうです。

その後も「来るのはいいけど、住まないでね(Come visit, but don’t stay)」だったり、「オレゴンを見て楽しんだら、立ち去ってね(See Oregon and Then Go Home)(Oregon, Love it and Leave it)」というようなフレーズも生まれました。

オレゴン州知事であるトム・マッコール自身が、オレゴン観光を推進するキャンペーンの最後に「どうか、我々を訪れてください。でも、どうかどうか、ここにいつかないでください」とつけ加えたことが長く語り継がれ、それによって、オレゴン州に対しては「フレンドリーじゃない」というイメージがすっかりついてしまいました*2

ここだけ見ると、オレゴンって、日本で言う「京都」と似ているのかもしれませんね。観光業に力を入れていて、観光客と学生には愛想がいいけれど、よそ者が移住して生活するには辛い土地というイメージです(あっ、あくまでイメージです。事実かどうかは知りません)。

「帰れ!」という言葉の意味するもの

さて、このような「よそ者出てけ」問題は、オレゴン州だけで起こっているわけではありません。

移住してきた人々のおかげで、不動産価格や家賃が高騰し、店構えが変わり、古くからの住民やビジネスが追い出されてしまい、街の雰囲気全体が変わってしまう現象は「ジェントリフィケーション」と言って、最近いろんなところで問題になっています。ロサンゼルスのダウンタウン近辺や、ベニスビーチ付近、北カリフォルニアのサンフランシスコなど、カリフォルニアのなかでもあちこちおこっています。

サンフランシスコから、マウンテンビューのGoogleオフィスへの無料シャトルバスに卵が投げつけられたのか、よい例ですね*3

ある街が人気になる理由は、その街のオリジナルな「文化」だと思います。それなのに、その文化に惹きつけられた来た人たち自身が、そこの文化を乱し、その文化を背負ってきてきたような人々がそこに住めなくなり、文化が消える原因となってしまう……というのは皮肉なことですね。

そういうジェントリフィケーションに対する苛立ちは理解できるのですが、ちょっと気になるのは「俺たち」対「彼ら」という対決姿勢を強く打ち出すことは、結局移民排斥やトランプ大統領が主張している「壁を作ろう」という政策にも通じってしまうという点です。

「レイシスト」のユートピアだったオレゴン州

今現在はリベラルかつ進歩的な印象で知られるオレゴン州ですが、実は、その設立はかなりレイシストなものでした。

1859年にオレゴン州が独立した州として認められた時、オレゴンは、合衆国のなかで、唯一黒人が生活し、働き、そして財産を所有することを禁じた州でした。州憲法のほとんどがオハイオ州やインディアナ州憲法からの使い回しでしたが、オレゴンは、「黒人を州から排除する」というようなオリジナル条項を付け加えたのです。皮肉なことに、それは「人権条項」の一部として付け加えられたものでした。

こうして、オレゴン州では、1926年までは、黒人は新たに州内に引っ越すことはできませんでした。そして、20年代には、人口あたりの「クー・クラックス・クラン」の会員比が全国一高く、また、1950年代にはしっかりと「白人専用」のレストランなどもありました。

アメリカの人種差別というと「南部の話」だというイメージが強いですが、実際にはオレゴン州でも「土地を純粋に保つ」という名目のもと、ばっちり人種差別は行われていたのです。今でも、オレゴンはとても白人の多い街で、全米の人口の13%が黒人なのにも関わらず、現在もオレゴンの人口のうち黒人の占める割合は2%に過ぎません(ポートランドは、72.2%白人で、6.3%黒人)。

http://gizmodo.com/oregon-was-founded-as-a-racist-utopia-1539567040

そんなオレゴン州には、白人優位主義者も当然いて、今年の5月には、電車のなかでムスリムの少女たちにヘイトスピーチを浴びせかけた男が、止めようと入った二人の男を刺し殺す事*4などもおこっています。

オレゴンを「リベラルで進歩的な州」とだけ見ていると、今回のような排他的な態度は意外に思えますが、州の成り立ちまで遡ると、「そもそもが『俺らだけの土地』的な排他的な理想のもとに成立した州だったのね…」と納得させられます。今回の「カリフォルニアに帰れ!」事件自体は、どうやら被害者が白人なので、おそらく人種的要因は薄いと思えますが、カリフォルニアからのオレゴン移住者のなかにはアジア系を中心とする非白人も多く含まれます。彼らはどのような経験をしているのでしょうか?

「カリフォルニアに帰れ!」落書きの裏にあるものは何なのか、ちょっと気になります。

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