#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

海外ドラマ『トランスペアレント(Transparent)』第1シーズン感想

以前からちょこちょこ紹介しているAmazonプライム・ビデオのオリジナルシリーズ『トランスペアレント』。ようやく第1シーズンを見終えましたので、改めて紹介します。以下ネタバレありですが、別にネタバレしたところでどうということはないドラマなので心配しないでください……。多分。

『トランスペアレント』登場人物

■主人公 マウラ(Jeffrey Tambor)

もともとはモートンとして生きており、結婚して、子供三人を儲けるが、徐々に女性の格好をすることに目覚める。女装者のコミュニティに出入りし、妻のシェリーに女装を認めてもらおうと働きかけるが、シェリーは受け入れられず、離婚。離婚の理由は長年子供たちに隠してきたが、そろそろ引退という年齢になり、マウラは、子供たちにカムアウトし、フルタイムで女性として生活をはじめることを決意する。演じたジェフリー・タンボールは、ゴールデングローブ賞を受賞。

■長女サラ(Amy Landecker)

ノンケとして、夫レイと結婚し子供も育てていたけど、大学時代につきあっていた元カノのタミーと再会して、やけぼっくいに火が!元カノも、既に一度の同性離婚を経て、現在はパートナーのバーブと子供を育てているのだが、さてどうなる?

■長男ジョシュ(Jay Duplass)

レコード会社勤務。仕事の上では成功しているが、とにかく女好きで、誰かれ構わず寝てしまう。単にヤリチンというより、愛を信じ、すぐに中出し結婚したがるダメ男。会社をクビになった後、自らのレーベルを立ち上げるための資金を父親にねだっている。そんな時、ユダヤ教のラビの女性と知り合い……?

■次女アリ(Gaby Hoffmann)

化粧っ気がなくショートカットでサバサバした性格のためものすごくレズっぽいのだが、男好きのノンケ(?)。人生において何がやりたいのかよくわからない。学費を父親にねだっている。幼なじみで親友のシド(Carrie Brownstein)にとある嘘をつかれていていたことでショックを受けるが……?

あらすじ

ロサンゼルスに住むトランスジェンダーのマウラが、既に成人した子供たちをはじめとする、家族にカムアウトし、トランスジェンダーとして生きていく姿が描かれる。マウラ一人の話というよりも、ロサンゼルスに住む、現代的なユダヤ人家族ひとりひとりの姿をリアルにドライに描き出しているアンチクライマックスなドラマです。また、マウラが過去にどのようにトランスジェンダーであることに目覚めていったのかについて90年代の回想なども交えつつ描いています。

感想

よくも悪くもくそリアルで演出は好みが別れるかも。登場人物のセリフや展開にはコミカルなところもあり、肩の力が抜けた感じで面白いのですが、めくるめくような非日常感とか、涙が出るほど爆笑してしまうとか、そういうのは全然ないです。一応レズビアンのホットなベッドシーンとかもあるのですが、なんというか、現実的すぎて萌えない(汗)セックスも死も、運命的な出会いも淡々と過ぎゆく日常の一コマとして描かれます。

なんというかなー。このドラマってものすごくアンチクライマックス。

LGBTの登場人物もカムアウトの瞬間もものすごく「普通」っていうか、全然注目に値するものですらないイベントであるかのように、さりげなく描かれている。かといって、それが「脇役」なわけではなく、やっぱり彼らのクィア性だとか、カミングアウトストーリーなのは中心としてしっかり描かれているんだけど、その描き方は全然ドラマティックではないのね。むしろ、主人公たちの友情だとか恋愛だとか、家族関係だとか、宗教とのつきあい方とか、そういう彼ら一人ひとりの抱える問題がクローズアップされる。しかし、この人達は見事に誰もがダメ人間であり、誰にも憧れたり萌えたりすることがなかなか難しい。

それが、物足りなく感じられるかもしれないけれども、そういう感じが、何か「ポスト同性婚」のリアリティーなのかなーと思った。あ、言っておくと、アメリカでもこういうのが普通ってわけじゃないですよ。あくまでこれは、ロサンゼルスの都会の裕福な白人たちの間の話。これを見て「あるある」って感じるのはものすごく限られた人たちなのだとは思うのだけど、それは確実に次のリアリティーを描き出してるんだと思う。

うちらは、感動の家族ドラマにも、笑って泣けるコメディにも、甘酸っぱく切ない青春ドラマにも、官能的でめくるめくような禁断の愛のストーリーにも、権利を求めて立ち上がる闘いの記録にも、もう疲れてしまったんだよね。うちらは、決してピュアでも純愛でも聖人でもセクシーでも可愛くもミステリアスもなく、そこそこ嘘つきでずるくてダメ人間で、悩んだり迷ったりうろうろまごまごしながら、この世の中を「普通に」生きている。

わたしが印象に残ったセリフはこれ。

「一体、君はわたしのことが好きなのかい?もしもわたしがお金をあげなかったなら、あなたは口を聞いてくれただろうか?」

マウラが、娘のアリにいうセリフです。このドラマに出てくる子供たちは、もう30代とか40代で、子供もいたりして、結構よい年なのですが、意外と子供っぽいというか、自分勝手というか、親に対して甘えているところがあって、お金を貰おうとしてたり、親の話をちゃんと聞いていなかったりするんですね。わたしは自分自身家族との関係で悩んだり、まわりの家族を見ていろいろ考えるすることがあるので、このセリフを耳にして、何かぐさっと感じてしまいました。

Amazonプライム・ビデオで観られるのでぜひ!

現在は第2シーズンまで配信中。第3シーズンの製作も既に決まっています。

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