#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

アメリカが「トランプランド」になった日 --わたしの大統領選

 一週間遅れてしまったけど、ちょこちょこメモしていた分があるのと、毎日移り変わる気持ちを書いておいた方がよいと思うので、書きます。

 

11月8日、火曜日。

大統領選の投票日だった。

アメリカ人のパートナーFちゃんは、朝、前日記入したバロット(投票用紙)を郵便局にドロップした。投票用紙には「I voted(投票しました)」というステッカーがついていて、アメリカ人は皆これを誇らしげに服に貼る。

お店の店員や、会社でも多くのアメリカ人がこのステッカーを貼っていた。政治に興味がないわけじゃないのに、アメリカの市民権(国籍)がなく、投票できないわたしは、ちょっと取り残されたような気分になってた。自分もこの社会の一員なのに。「つけたければつける?」とFちゃんはステッカーを渡してくれたけど、でも、わたしは厳密には投票してないんだから、それはおかしいよね。それでもヒラリーを応援するために、わたしはパンツスーツを着た。いつもパンツスーツに身を包んでいるヒラリーを応援するために、パンツスーツを着る #pantssuitsnation というのが流行ってたのだ。

秋風は吹き始めていたけれど、穏やかで、気持ちのよい一日だった。

夕方5時、東海岸で投票が締め切られ、徐々にメディアで選挙特番が始まった。西海岸にいるわたしたちは、いつでも遅れ気味になる。速報を見ながら「トランプが勝ってる」と誰かが叫ぶと、一瞬場はざわめいたが、それでも「またまた〜!デマ流さないでくださいよ」というような冗談めいた感じだった。

わたしも、周りも、この時まで、ヒラリーの勝利を信じて疑っていなかった。直前の世論調査では圧倒的にヒラリー有利と出ていた。フロリダやノースカロライナなども民主党よりになるのでは?という分析も出ていた。

その夜は、各地で開票速報を観ながらパーティするという「選挙ウォッチングパーティー」が開かれていた。ロサンゼルスのLGBTセンターも、ウェストハリウッドのバーやクラブでも。「史上初の女性大統領の誕生を一緒に目的し、祝いましょう」という感じだった。

わたしも、その日、友達の家で行われたそんな選挙ウォッチングパーティーに向かっていた。渋滞に巻き込まれて友達の家に着いたのは少し遅かったけれど、まだ楽観的だった。

みんなで持ち寄ったピザやパイを食べながら、ワイワイテレビを観ていた。

そこにはアメリカ国旗や、帽子、スパークリングワインなど、お祝いのためのグッズも用意されていた。勝ったら、こーゆーダンスして写真撮ろうねーとかも決めて、練習もしていた。

ただ、Fちゃんだけは、難しい顔をして、「トランプが勝ってる」と言ってた。テレビの画面を見ると、テキサスが赤くなっている。こんなのはまだまだ想定内だった。わたしは呑気に、大丈夫まだまだこれからでしょう?なんて言っていた。

四年前も、わたし達はウェストハリウッドの選挙パーティーで開票速報を一緒に観てた。その時も、驚くほど多くの州が赤くなってたけど、最終的にはオバマが勝ったからだ。

それから……。

フロリダやノースカロライナが赤くなった。

…わたしはボーっとしていた。ん?フロリダ?あれ?フロリダはスウィング州(赤くなるか青くなるかわからない激戦州)だよね?でも、ヒラリー勝つよね?だってバーニーじゃ本選挙勝てないから勝てる候補、ヒラリーにしろってプライマリーの時、皆言ってたじゃん……。ピザを頬張りながら、周りの友達を見ると皆「ヤバい」って顔をして、「うーん」とか言ってる。

 

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ペンシルバニアとかは「Too close to call」と接戦であることを示しているけど、中途経過を見ると、ペンシルバニアも、少しだけトランプの票の方が多かった。

え?え?え?

ツイッターを開いて見てみると、「ペンシルバニアが取られたらトランプの勝ちだ。おしまいだ」みたいなツイートが複数流れていた。

わたしは、多分、そこで初めて「こりゃヤバい…」と思い始めた。←ツイッターを信じる人。

ペンシルバニア、頑張って!と!

ってゆーか、トランプが大統領になるわけないじゃん?ありえないじゃんって感じ。

説明になってないかもだけど、まさしくそんな感じだった。

ところがテレビを見て、ツイートを見ているうちに、「うげ…」嘘でしょ…って声があちこちからし始めた。

激戦区と呼ばれる州の開票状況を、群ごとに色分けして分析してるんだけど、四年前は結構半々だったり、青かった(=民主党支持だった)エリアが今年はことごとく真っ赤なのだ。

 

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カナダの移民局のウェブサイトがクラッシュした。アメリカ人のおなじみのジョーク「トランプが勝ったら、カナダに引っ越す」ってのが、もつジョークじゃすまなくなっている。

 

 

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「ジョンソンの支持者め!」  

 

と冗談っぽく言っていたけど、胃に、重い重い石が詰め込まれたみたくなった。

FiveThirtyEightも、New York Timesも、トランプの勝利の確率をどんどん上げていって、もう85%、95%、トランプの勝利だ、みたくなってきた。

信じられない……。

嘘でしょう?え、票の数え直しとかできないの?あの、あの、あの、あのトランプが、本当に大統領になるなんて、ありえないでしょ?なんとかならないの?まるで、自分が、シュールリアリズムの絵画のなかに迷い込んだような感覚に襲われた。不気味に歪む、無人の街。一見正しく見えるのに、どこかおかしい世界。必死でツイッターに書き込み、スマホで検索しまくったけど、どの世界でも、トランプが勝っているようだった。そして、涙が出てきた。用意していた祝福グッズに誰も手を触れないまま、一人、また一人とパーティーを去っていった。そこにいたのは、アジア人、女性、黒人、白人もいたけど、皆クィアで、何かしらマイノリティだった。わたしもまだよく状況が飲み込めないまま、Fちゃんと帰宅した。8年前、同性婚を否定する提案8号が可決した時を思い出した。あの時の辛い気持ち。でもあの時は、せめてオバマ当選というニュースがあった。今は。希望が、何一つ、ない。ただ真っ黒なだけ。---翌朝、目覚めたけど、まだ悪夢は続いていた。意外なことに、「トランプに入れた」という人やトランプになってはしゃいでいる日本人などが、周りにいることも明らかになった。政治の話は誰とでもするわけではないので、知らなかったけど、こうなってみて、はじめて「そうだったのか!」という人が結構いたのだ。ちなみに、周りでトランプ支持者の数でいうと、アメリカ人より、日本人の方が圧倒的に多い(在米邦人、帰国組含む)。日本人はニュースソースが偏ってるからそうなるのかもしれないけど、正直トランプになってはしゃいでいる人たちに対して何を言えばいいのかわからなかった。Facebookフィードは、嘆きと怒りと悲しみが怒涛のように流れていた。なぜ?アメリカに対する失望。ジル・スタインや、ゲイリー・ジョンソンなど第三党に入れた人への怒り。投票しなかった人への怒り。これから子どもを生むクィアカップルたちの恐れと怒り。わたしもがっかりしていた。アメリカってこんな国だったの?アメリカは理想に基いて作られた国なのではなかったの?ヒラリー支持者は心の底から悲しみ、トランプに投票した人たちのことを攻撃していた。そして、こんなに能力と経験があるのに、8年前に引き続き選挙に負けてしまったヒラリーを気の毒に感じていた。わたしもヒラリーの気持ちを考えると、胸が痛かった。わたしはヒラリーは好きではなかった。でもヒラリーが勝つと思っていたし、トランプと比べれば、当然ヒラリーになってほしかった。ヒラリーの人脈、知性、経験。LGBTや女性の権利へのコミットメント。それらに期待していた。ヒラリーに欠点がないわけじゃない。でも、そんなのは、トランプと比べる方がおかしいレベルのものだ。「どっちもどっち」なんていうのは、ヒラリーに対して失礼すぎる。それくらい差がある。ああ、なんでヒラリーは負けてしまったんだ……。選挙人団制度を廃止出来ないか?選挙人に、ヒラリーとかトランプ以外に投票するよう呼びかけられないか?そういうことを考えたのもこの辺だった。ヒラリー支持者は「なんとしてでもヒラリーにできないか」といろいろなことをポストしていた。トランプを急いで訴追するとか。確かに彼は複数の裁判を抱えているし、ヒラリー以上に、いろいろグレーな疑惑がある。もし、自分が神様なら、何かをどうかして、どうにかしてヒラリーに出来ないか?初めはそんな風に考えていた。

 

ヒラリーは、得票数ではトランプより勝っていた。そう考えると、「アメリカは差別にOKと言った」とかそういう感じでもない気がしてきた。トランプより、ヒラリーを好んだアメリカ人の方が多かったのだから。アメリカだってまだ捨てたものじゃない。アメリカに対する失望、から少し回復した。

それに、何より、カリフォルニアは、大差で民主党が勝っていた。わたしはカリフォルニアに対する希望を強く持った。わたしはアメリカ人のことはわからないけど、カリフォルニアのことは、やっぱり信じられる。わたしは、カリフォルニアに裏切られたわけじゃない、って思った。というかもう、なんでもいいから希望がほしかったんだよね。

そしたら「カリフォルニア独立運動 #Calexit」というのを目にした。皆考えるよね。うんうん、それもいいんじゃない?そう思った。

 

でも、それから数日して、いろいろなデータや分析を観ていくうちに、ドナルド・トランプが支持された以上に、ヒラリーが支持されてなかった、ということが、自分の中にずしーんと意味を持ってきた。ヒラリーが負けたのは、トランプ旋風が吹いたからでも、第三党に票が流れたわけでもない。ヒラリーという候補者を立てたことが間違いだったのだ。ヒラリーは、過去の選挙で民主党に投票していたような層と今回コネクトしきれなかったし、プライマリーで、バーニーに投票するためにわざわざ「インディペンデント」から「民主党」に登録を変えたような、大量の層にもリーチしきれなかったのだ。

 

そんな現実を無視して、ヒラリーを無理やり大統領にしようとしたり、カリフォルニアだけ独立したりしようとするのは、何か解決策ではないよなあと思った。

 

でも、でも、でも、トランプは、トランプみたいな人が自分たちの国の最高権力者だなんて、ありえない。それはハッキリしていた。これは単に共和党政権だからじゃなくて……障がいを持つ人をからかい、対立候補者をバカにし、女性差別的で、メキシコ人をレイピストと呼び、ムスリムを登録させろという……数えればキリがないけど……政治の経験はなく、ビジネスだって親の金でケツ拭いてもらってるだけで別に上手くはない……そんな人だけはありえないでしょ。

 

そうこうしているうちに、選挙後初の週末がきて、わたしは反トランプデモに出かけてみることにした。

 

長くなったので、まずはここで一旦投稿する。