あらすじ
一九六〇年、プラハ。小学生のマリはソビエト学校で個性的な友だちに囲まれていた。男の見極め方を教えてくれるギリシア人 のリッツァ。嘘つきでもみなに愛されているルーマニア人のアーニャ。クラス1の優等生、ユーゴスラビア人のヤスミンカ。それから三十年、激動の東欧で音信 が途絶えた三人を捜し当てたマリは、少女時代には知り得なかった真実に出会う!大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。 (「BOOK」データベースより)
感想
この本、めちゃくちゃ素晴らしかった!
この本には三編のエッセイが収められている。著者がプラハのソビエト学校で知り合ったリッツァ、アーニャ、ヤースナ、三人の友人とのエピソードや、三十年を経ての再会の経緯が描かれている。
早熟でませていて、勉強嫌いで、一度も行ったことのないギリシャの青い空と海を自慢するギリシャ人のリッツァ。革命と空想が大好きで、嘘をつく癖のあるルーマニア人のアーニャ。そして、ユーゴスラビア人の優等生のヤースナ。
プラハのソビエト学校で知り合った子ども時代の交流や、思い出話と三十年経って彼らを探し当てるまでの苦労、その後彼らのたどった人生が語られる。政治に巻き込まれた人々の悲喜こもごもがあるし、場合によっては戦火や政争に巻き込まれてもう亡くなっているのかも……という恐れも感じる。共産圏の内部では実際何が起こっていたのか、東欧・中欧のソ連衛星国だった国々で、民主化運動が起き、軍事侵攻や、時には国自体が消滅するという激動の歴史のなか、旧共産圏の国々で生きていた人々がどんな生活を送っていたのか?何を考えていたのか?単に教科書のなかの出来事だった「歴史」がぐっとリアルに、血肉のあるものとして迫ってくる。
なんだろう。
大きな、人が逆らえない「歴史」というもの。そのなかで懸命に生きた少女たちの軌跡。「病気で恋人が死ぬ」とか「世界の敵と戦う」とかそういう安っぽい設定はないんだけど、もっとじわじわとこみ上げてくるものがあるんだよね。それは多分「感動」っていうものなんだろうけど、そういう言葉を使うことすらためらってしまう。
作家のミラン・クンデラや、クレイアニメ作家のヤン・シュワンクマイエルなど、チェコ出身の好きなアーティストが何人かいる。彼らの作品のところどころに「政治性」は出ているが、今まではあまり現実の出来事とリンクさせて鑑賞するということをしてこなかった。この本を読んで、改めて歴史をよりしっかり学んだ上で、これらの作品を見なおしてみたいと感じた。
米原さんの筆致も気に入った。サラッと読みやすいのに、骨太で味がある。前から興味があった人なので、もっと読んでみたい。
マリとヤースナの関係がちょっと百合
三編目の『白い都のヤスミンカ』がもっとも胸に迫ったのだが、特にこのくだりできゅんきゅんした。
も、萌えるッ!
共産圏の学校で出会った二人の少女。
実は、この時、日本とユーゴスラビア(の共産党)の間は冷えきっていた。ソビエト学校の生徒のなかにはこのような政治状況を人間関係に持ち込み、距離を置いたりする子どももいた。でも、マリは「政治と人間関係は違う」ことを証明したくて、勉強ができるだけでなく、絵の才能も秀でている素敵なヤスミンカと仲良くなりたかったのだ。この設定完全百合でしょッ!
動画で観る「アーニャ」の世界
実は、この本で描かれている「再会」は全てNHKのドキュメンタリー番組『世界・わが心の旅』のカメラに収められている。
動いているリアルなマリ、リッツァ、アーニャ、ヤースナを見たい方はぜひどうぞ。
あ、でも先に本を読んだ方がいいかもしれない。