トニー賞ノミネート俳優であるノーム・ルイスが演じた「オペラ座の怪人」を観た。tktsで当日券を買ったのだが、これが半額でよい席。大正解!ルイスのファントムは声量豊かで、歌唱力は抜群。また、醸し出すエロスがものすごく、主人公クリスティーンとの掛け合いがゾクゾクする。朗々と歌い上げる系の声だけでなく、細い声の繊細な表現やすすり泣き的な表現もうまい。ラウルも好青年なのだが、クリスティーンとのケミストリーの表現ではダントツで怪人が勝っていた。私はストーリー的にはラウル派なのだが、これを観たあとはファントムファンになってしまった。
今年、ルイスがブロードウェイ13代目のファントム役に決まった時は、「黒人が怪人役を演じるのはブロードウェイ初」と話題になった。ロサンゼルスでは90年代に黒人がファントム役を演じたプロダクションがあったが、ブロードウェイでこの作品が上演されている26年間の歴史のなかでは、初めてなのだ。
「人々は、キャラクターへの特定のヴィジョンを持っていて、多くの場合、マイノリティの役者はそれに当てはまらない」とルイスは述べている。「今では人々は少しこれに関して心が広くなったようだ」と。彼は決してブロードウェイに「この役には絶対黒人はキャストしない」形式の人種差別があるとは思っていないが、ブロードウェイのショーには、これまで人々が慣れ親しんできた一定の見せ方とか描き方があり、アジア系、ラテン系、そしてアフリカ系の俳優たちにより機会が与えられるべきだと感じている。←これを人種差別という強い言葉を使って糾弾することが、今もその業界で食べている現役俳優としてうまい作戦でないのは理解できるが、これこそ、形を変えマイルドになった「わかりづらい差別」だよね!
「オペラ座の怪人」の作者でありプロデューサーのアンドリュー・ロイド・ウェバーによれば、過去にもマイケル・ジャクソンやサミー・デイビスなど、多くの大物がこの役を演じることを熱望し連絡をとってきたという。MJもやりたかったとは驚き!MTV出演など多くの「ガラスの天井」を打ち破ったポップの王様でも、ブロードウェイでファントムを演じることはできなかった!
最近は、ブロードウェイでも、ロミオとジュリエットが黒人と白人の異人種間カップルを描くものとして演出されたり、アニーも黒人キャストで映画化されるなど、 ミュージカルの世界で黒人の存在感が高まったように感じていたが、ここに至るまでは大きな長い道のりがあり、ルイスの偉業は歴史的なものだと再認識した。