やっと読みました!『弟の夫』めちゃくちゃおすすめです!
【あらすじ】
死んだ双子の弟はゲイだった。カナダに行った弟が結婚していた夫マイクの訪問を受ける弥一と娘の夏菜。戸惑いを捨てきれない弥一に対して、屈託なく「カナダのおじさん」を受け入れていく夏菜。三人の奇妙な同居生活が始まった!
【感想】
クマ系で温厚な「マイク」と屈託のない現代っ子「夏菜」、そして、いい意味でものすごーく普通な「弥一」のキャラクターがいい味だしてます。
弟のカムアウトを受け入れたつもりだったけれど、いつのまにか疎遠になってしまった兄弥一は、当然ゲイについてはよく知らない。そんな彼が、「弟の夫」、(しかもカナダから来た外国人!)との接し方に戸惑いながらも交流を深めていく……というまだまだお話は始まったばかり。マイクたちがどう距離を縮めていくのか?まだあまり存在感のない弟の「リョージ」はどんな人だったんだ?など今後のストーリーが楽しみ。
マイクがカナダ人っていう設定は、物語において意外にポイント大きいですね。マイクの言葉は片言だからこそ、ポイントをついていて、すっと心に入ってくるのかもしれない。カナダでの寿司の話をしながら、「ゲイとノンケ」の異文化交流と「カナダ人と日本人」の異文化交流をうまく絡めて描いてあってそういうところも「うまいなー」と思いました。
男同士で結婚するなんてことが
俺にとっては寿司のテンプラみたいなもんだ今はまだ味も喰い方も判らない
あと、この作品はもう一つとても大切なことについて思い出させてくれました。
それは、人にものを伝えるとき、相手の気持ちになる、ということの大切さです。
んー。こうやって言葉にすると、めちゃくちゃ凡庸になってしまうのがもどかしい。わたしも長い間ゲイとして生きてきて、ブログもゲイネタが多いですし、リアルでもプライベートの友達は99%クィアという、ある意味「コミュニティスレ」をしてきてる部分があります。そうすると、何を言うにしても内輪思考になってしまうんですよね。「言わなくてもわかるでしょ」というか。自分もゲイ周りのことを言ったり書いたりする上で「言わなくてもわかるであろうこと」は省き、その先の話がしたいなあ!と思ったりするんですが、でも、実は、「自分にとって当たり前のことでも、相手にとっては違う」んですよね。そして、相手にとってのスタート地点から話をすることがものすごーく大事なんですよね。それを自分は忘れてたなーと。
ちょっと抽象的になっちゃったので、具体例をあげますネ。
ゲイカップルにとって「『どっちが男役?女役?』とか聞かれることにうんざりするよね!どっちでもないよ!」というのはまあコミュニティあるあるだと思います。わたしもこういうネタを書くときは「聞いてはいけない!ゲイがうんざりしている10つの質問」みたいなスタンスをとったり「わたしたちはなぜそういう質問にうんざりしているのか」的な立場から書くことが多かったわけなんです。しかし、『弟の夫』は、そういうところの手前にある「どっちが男役?女役?ってどうしても気になっちゃうよなあ」っていうところに共感を示しつつ、キチンと怒るでもなく、穏やかに言います。
「私のハズバンドはリョージ
リョージのハズバンドが私」
主人公の弥一はその言葉を聞いて「どちらが男役/女役?」と異性愛者の結婚に重ねあわせてゲイのパートナーシップを理解しようとしていた自分のなかの固定観念に気づく。夜起きだして、昼間のマイクの言葉を噛み締めながら「そうだったのか!」ってなる、そういうモノローグがものすごく丁寧なんだよね。人の理解ってそんな一瞬には訪れない。わたしも「レズビアンって何」的な人と接する機会がたくさんあってイライラしたり、変なことや失礼なことを言われるとんもうまとはずれ!!!ってなったりするわけですが、人は誰でも初めはゼロで。そこから少しずつ他者を理解していくんだなーっていうことを覚えておかなくてはいけないな、と。
作者の田亀源五郎さんは、そもそもゲイ雑誌を中心にずーっと活躍してこられたゲイ・エロティック・アーティストで、なんというかものすごーい濃ゆい「ゲイゲイしさ」の源みたいな作品もきっちり描ける方なわけですよ!なんだけれども、『月間アクション』という一般誌で、ガッチリしたガタイと体毛描写はそのままに、ここまでキチンと読者と同じ目線に降りて描かれているということに大変な感銘を受けました。
一般誌で「普通のゲイの日常」を描いている意味では『きのう、何食べた?』も似たような感じなんだけど、やっぱり、あれはゲイを主人公にしているため、「ゲイあるある」がサラッと出てくるんだよね。そこをあくまでサラッと流す感じがサラッとしすぎてて、あざといというか、まあそれはいいや。『弟の夫』は主人公がノンケの男性なので、ちょっとホモフォビックとも言えるような気持ちやひっかかりをいちいち持ったりするわけなんだけど、そういった感情を流さずに、ちゃんと向き合ってリアルに丁寧に描き、そこからスタートしてるところが、すごくよかったです。
あ、そうそう、ところどころに挿入される「マイクのゲイ・カルチャー講座」も充実してていい。さあ、これからどうなるんだろう?二巻も楽しみです。
【評価】
★★★★1/5