俳優のザッカリー・クィント(Zachary Quinto)が、LGBTへの差別撤廃を訴える国連のビデオに声の出演をしました。
LGBTの若者が置かれた現状
内容の骨子は、以下のとおり。
LGBTの若者の2/3が、子どもの時いじめを経験している。
その結果1/3の若者は、学校を休んだり、退学したりしている。
多くのLGBTの若者は両親から拒絶され、家を追い出され、ホームレスになっている。アメリカの主要都市に住んでいるホームレスの若者のうち40%が自らをLGBTまたはクィアだと自認している。
いじめ・孤立・そして拒絶は、深い傷を残す。ゲイやレズビアンの若者は、ストレートの若者に比べて自殺率を考える割合が4倍も高く、トランスの若者は自殺を試みる割合が10倍も高い。
差別のコスト
……とここまでだと、「苦しむLGBTの若者を救おう」というよくある動画っぽいのですが、この動画の面白いところは、「差別による経済的損失」について触れているところです。
「LGBTの貧困率、ホームレス率、そして、鬱になる比率や自殺率は、一般に比べて高いことがわかっています。これらは、LGBTの人たちだけが負担しているコストなのではありません。私たちは皆このコストを負担しているのです。家庭から追い出され、教育を得る機会を奪われたLGBTの子ども一人ひとりは、私たちの社会の損失です。LGBTの労働者働く機会を奪われることで、社会は、より公正で生産性の高い経済を作る機会を失います」
「LBGT差別は社会に経済的損失を与えている」っていうのは、好きな人がいそうなのでちょっと詳しく書くと、これは実は、2012年に世界銀行がインドを例にとって行った研究を元にしています。
社会的排除(差別・違法化・学校での嫌がらせ・失業etc)が、個人的な損失(低い教育レベル・生産性・収益・健康状態etc)を産むことは知られていますが、実は、その、個人的な損失が、社会的な損失(医療費や社会的プログラムのコスト増大、低GDP、人材に投資するインセンティブの低下)につながっているということなんですね。インドのケースだと、最大でGDPの1.7%、約3.6兆円の損失があると試算されました((研究結果のプレゼンPDFがここにありますので参考にしてね))。
ゲイゲイしい音楽が流れ出し、どんどんテンションが上がっていって終わります。
「メリットあるよ」戦略は嫌いだが…
わたしは正直いって、「XX差別をやめれば、あなたにこれだけメリットがあります!」方式のロジックを使って、反差別を訴えるのがものすごく嫌いです。「メリット」にならない被差別者を切り捨てる正当化につながるからです。才能がない、お金が稼げないLGBTだっていますよ。そういう人たちは差別してもいいってことになりかねませんよね。
あと、ぶっちゃけ、差別を撤廃することが、既得権者にとって「具体的に不利益」になることなんて山ほどあります。だから「差別をしないことが、あなたに『具体的』な利益をもたらします」っていう説得には、ちょっとごまかしを感じるんです。
あえて「メリット」を訴えるなら「誰も差別されない社会に生きられること」それがメリットなんですよ。マイノリティーは、生まれつきのものだけではないです。自分が明日なるかもしれないし、家族が「そうだった」ってことにある日、気づくかもしれない。誰もがいつマイノリティーになるかわからないこの世の中で「差別されない」「不当な扱いを受けない」「万一何かあれば救済を受けられる」そう思いながら、安心して生きられるのは、かなりのメリットだと思いますよ。
ザッカリー・クイントもゲイ!
ザッカリー・クイントは自らもゲイであることを公表している俳優です。『スタートレック』シリーズをはじめ『24』『HEROS』『アメリカン・ホラー・ストーリー』などに出演しています。
また、ゲイの権利擁護活動にも熱心で、カムアウトする前から『It gets better』キャンペーンにも参加しています。