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アメリカで働くレズの徒然

「変人思考」が世界を変える!経済的アプローチで人を説得する方法を教える『0ベース思考』感想

わたしの大好きな二人組スティーブン・レヴィット&スティーブン・ダブナーの日本語訳新刊『0ベース思考』を読みました。やっぱ、面白いわ、この人たちの本!

この二人、誰?

スティーブン・レヴィットは、経済学者で、スティーブン・ダブナーは、ジャーナリスト。

ダブナーはクォーター日本人で、元々はレーベルにも所属してたロックバンドをやっていた。でもその後ジャーナリストになり、いろんな人を取材してるうちに、レヴィットに出会い「なんだ、この変な経済学者⁉︎」って虜になる。

レヴィットは、経済学者の中でも、変わり種で「人工妊娠中絶と凶悪犯罪の関係」だとか「銃とプール、子供にとってどっちが危険?」とか、「不動産エージェントの隠れた癖」だとか、そーゆー、一風変わったトピックを取り上げていたのだ。そもそもメディア嫌いだったらしいがダブナーと一緒に書いた本はベストセラーになり、次々と新刊が出た。

英語では既にこの『0ベース思考(Think like a freak)』の次の本『銀行強盗するべき時(When to rob a bank)』という次の新刊を今年発表している彼ら(あ、ちなみに、答えは「いつでもしちゃダメ。銀行強盗のROIは最悪」)。

When to Rob a Bank: ...And 131 More Warped Suggestions and Well-Intended Rants
Steven D. Levitt Stephen J. Dubner
William Morrow
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↑関係ないけど、この本を原書で読みたい人は、日本のAmazonからKindle購入するのがめっちゃお得なのでおすすめ。アメリカのAmazonで売られてるKindle値段の半額くらいで買えちゃいます!

「フリーク」ってなんだ?

『0ベース思考』の原題は『Think Like A Freak』。二人の本は、『ヤバい経済学』時代からずっとfreakっていう言葉のキャッチーさと、「ヤバさ」がものすごーく大事な役割を占めているのに、これまでの訳書ではことごとくその「フリーク」という単語が消されてしまっている。あ、「ヤバい」っていうのは、フリークの訳として、意外と悪くないけど。それにしても、『Think Like A Freak=フリーク(変人)のように考えろ』、というのを「0ベース思考」というのは、何なんだろうね?まるで、そこらへんのつまんないビジネス書みたいなタイトルじゃないか!

気になる内容はこんな感じ

  • 日本人の「コービー」こと、小林尊は、なぜホットドッグの早食い大会で世界記録を大幅に塗り替えられたのか
  • サッカーのPKはどこに蹴るべきか?
  • なぜ豊かな人ほど自殺するのか?
  • ヴァン・ヘイレンのヴォーカルと聖書に登場するソロモン王の共通点は何か?
  • 潰瘍性大腸炎多発性硬化症パーキンソン病にも効くという「うんこ移植」とは何か?

目次見るだけで、ワクワクしてこたい?盛りだくさんな話題でちっとも退屈しない。ポッドキャスト『フリーコノミックスラジオ』のリスナーなら「ああ、アレね!」っていうエピソードの話も一杯はいっている。

読みたくなかった理由

実はわたしはこの本を読むのをためらっていた。なぜなら、これを読んだら、自分の思考の根底が揺るがされるのをわたしは、すでに知っていたからだ。ゼロベース思考をするって、そういう道徳的なモラルの根本にまで(まるで子供のように!)なぜ?なぜ?なぜ?って疑ってくる。「なぜ、人を殺してはいけないの?」「なぜ、高齢者と若者の一票の価値が同じでないといけないの?」「なぜ、差別をしちゃいけないの?」そんな質問だって平気でしてくるだろう。「そういうものだから」、とか「それが“正しい”から」という答えでは、フリークは納得しない。

わたしは、「地産地消」がなんとなく好きだし、なんとなく「銃犯罪を減らすには銃規制でしょ」って思ってるし、なんとなく「人権は大事」だと思ってるし、そういう前提って、別にこれという根拠があるわけでもなく、直感とか、道徳、それに「なんとなく」正しいって思い込んでたからだ。もうほとんど「宗教」の域に入ってる。

読んでみてよかった理由

この本は、そーゆー直感とか主義主張を全部疑う。というか、そういうのは、問題を解決したり、人を説得するうえでは、ちっとも役に立たないのだから(←データが示している!)。道徳を否定したいわけではない。しかし、社会や問題解決を考えるうえでは、一旦脇に置いておこうというのだ。その代わりに彼らが採用するのはデータを基にした「経済的アプローチ」だ。

経済的アプローチっていうのは、もっと幅広くシンプルな考え方だ。直感や主義主張は脇にどけて、データをもとに世の中のしくみを理解し、どんなインセンティブがうまく行くのか行かないのか、また(食料やら交通手段やらの)具体的な資源や、(教育やら愛情やらの)観念的な資源がどう配分されるのか、資源が手に入りにくい原因にはどんな者があるかを明らかにしようとする方法をいう。

この考え方は、結局『ヤバい経済学』などの前著から共通するものでもあり、しっかり読んでみれば、これからの自分の考え方の「軸」にできるものなので、よかった。

インセンティブとは

レヴィットたちの考え方のなかで大きなキーになっているのが「インセンティブ」という概念だ。人が何を買うか、何を食べるか、何に投票するか!全てにおいて「インセンティブ」が関わっているのだ。といっても、インセンティブはお金の話だけじゃない。ここらへんわかっとくのはめちゃくちゃ大事だ。

  • 道徳的インセンティブ
  • 社会的インセンティブ
  • 金銭的インセンティブ
  • 群集心理インセンティブ

人への影響といえば、金銭的インセンティブが強いに決まってるだろ!と思う人もいるかもしれないが、そうでもない。実験によれば「ご近所の皆がやっているから」という「群集心理インセンティブ」がダントツで強かったそうだ。←ただでさえ同調圧力が強いと言われてる日本じゃなくて、個人主義なはずのアメリカはカリフォルニアでの実験ですよ〜!

自分のやりたいことを実現するためにはどうしたらいいのか

道徳的なインセンティブでは、人は動かない。でも人間心理をうまく知って、「本当に有効なインセンティブ」を設計することができれば、その人だけじゃなくて、社会のためにも有益な活動ができるはずなのだ。

この本のなかでは、慈善事業家に転身した広告マンの成功例や、有名な靴通販のザッポス、そして、国連が失敗した「炭素クレジット」のストーリーを基に、「金銭的枠組み」「敵対的枠組み」「友好的枠組み」などのそれぞれの関係性のなかで何がもっとも有効な「インセンティブ」なのかを説明していく。

人を説得するために

人を説得することがどんなに難しいことなのか、なぜそうのかを理解しておいたほうがいい。

「正しい知識」を持てば、ある一定の考え方に自然と帰結するはずだ……というのは間違いだ。反証可能なある一定の分野(科学や数学)でのリテラシーが高まれば高まるほど、自分の正しさへの確信が深まるため、「極端な意見」を持つ割合が高くなる。

そして……

相手の考えは事実や論理よりも、イデオロギーや群衆心理に根ざしている場合が多いことを頭に叩き込んでおこう。

その上でこういう風に組み立てる。

  1. 主役は自分じゃなくて相手
  2. 次分の主張が完璧だというふりをしない
  3. 相手の主張のよい点を認める
  4. 罵詈雑言は胸にしまっておく
  5. 物語を語る

恋愛のコツだったりマーケティングの手法の本を読んでいるようだ。しかし、結局こういうのが、対生身の人間の議論では大事なんだよね。「はい論破」とかじゃないんだよねー。

正しく「やめる」ことの大切さ

また、この本は「やめる」ことの大切さを強調する。一般的に「やめる」ことは諦める、とかよくないことだと思われている。やめられない理由には3つある。

  1. やめるのは失敗を認めることだと思わされたため
  2. サンクコスト(埋没費用)の誤謬
  3. 機会費用」について考えられていない

↑ここでは、エッセンスだけを紹介しているのだが、この本は、全て自分たちが読者の協力を経て得たデータだとか、実際の事件などのストーリーテリングを含めながら話されていくので、かなりストンと頭に入ってくる。

そう、この本自体が、ゼロベース思考で主張されている方法論に則って書かれているんだよね。そういう意味ではこの本をただ要約して「これがこの本の内容である!正しい!」とかなんとかやるのは、この本の主張を全然わかってないってことになっちゃうのかな。

まあ、面白いですよ。

ビジネス書なんだけど、人間心理に興味がある人とか「考え方の軸」を持ちたい人にはおすすめ。

『影響力の武器』とか好きな人にもいいかもしれない。