「ドナルド・トランプを支持するゲイの会」を立ち上げようとしているゲイ・ブロガーがいます。動物行動学者でもあるカイル・キットルソン(Kyle Kittleson)の動画はこんな風に始まります。
「しばらく考えたのですが、あることについて告白することを決めました。これは、長い間隠していたことで、決して恥ずかしいと思っているわけではないのですが、僕の家族や友達にこのことがバレたら、どうなるだろうと心配に思うことがありました。見捨てられるかもしれないとか、否定されるとか。もう嘘をつくのは嫌なので、正直になりますね。
僕は、ゲイです。
……そして僕はトランプ支持者なのです」
「すわカムアウト?」という、思わせぶりな冒頭からはじまる動画。実は、ドナルド・トランプ支持を訴えるものでした。ごめんなさい。途中で「おえ〜こんな動画の再生数に貢献したくないっ!」と思いながら吐き気をこらえながら観ました。
動画の印象操作
結論から言うと、この動画を信じてはいけません。彼は、トランプを支持する理由として、インフラ投資と移民政策、そして平等政策をあげていますが、今すぐ書ける点としては、「LGBTに対する平等政策はトランプの方が上」というのは完全に嘘。
キットルソンは「ヒラリー・クリントンは2013年まで同性婚を支持しなかった。それに対して、ドナルド・トランプは、既に2000年に雑誌『アドボケート』で、皆への平等を支持している!」とか言って、まるで、トランプがヒラリーよりも先に同性婚を支持していたかのように見せかけていますが、これ、印象操作です。
一貫して同性婚に反対のトランプ
2000年の『アドボケート』のトランプインタビュー読みましたが、はっきりと、「結婚は男女間のものである」と述べ、同性婚を否定しています。
I think the institution of marriage should be between a man and a woman. I do favor a very strong domestic-partnership law that guarantees gay people the same legal protections and rights as married people.
2000年に大統領候補に立候補した際には、同性愛や移民に対して、今よりもややリベラルだったことは事実で、上のように同性間のドメスティップパートナー制を支持するとしていますし、差別禁止法で禁止される差別として、性的指向に基づく差別を含むべきだとも述べています。
しかし、トランプ氏はその後一貫して同性婚には反対していますし、その後、移民やムスリムに対してより排他的な発言を繰り返し、支持率を集めています。2000年のトランプ氏のインタビューは、今読むと「あれ?意外とまとも?」と驚きを感じるほどで、当時の発言を使って現在のトランプ氏の政策を理解しようとするのは間違いです。
クリントンとLGBTの権利
翻って、ヒラリー・クリントン。彼女は、2000年の段階では、同性婚に反対しています(参考記事)。
結婚は、古く昔に遡れる歴史的、宗教的、倫理的な意味があり、それは常に男女間のものだったと思います。
Marriage has got historic, religious and moral content that goes back to the beginning of time, and I think a marriage is as a marriage has always been, between a man and a woman.
続いて、2004年にもこんな発言で同性婚を否定。
結婚は単なる結びつきではなくて、男女間の聖なる結びつきだと信じています。
I believe marriage is not just a bond but a sacred bond between a man and a woman.
さらに、2008年に出馬した際も、同性婚には反対でした。が、それはオバマも同じ。オバマ大統領とバイデン副大統領は、2012年に同性婚を支持し、クリントンは2013年にようやく同性婚を支持しています。うん。遅いよ。遅いんだけど、「同性婚」って、あまりに微妙なトピック過ぎて、国務長官だったヒラリー・クリントンだけじゃなくて、民主党の多くのリベラルな政治家たちも、ここらへんになるまで堂々と支持できなかったんですよ。バーニー・サンダースだってそうです。皆がゲイの権利は大事!パートナー制で権利を保護しようとは言ってたけどなかなか同性婚とは言わなかったんです。
もちろん「DOMA」を擁護しようとしたりするクリントンのスタンスには、なんとなく「信用できない」ものも感じますが、トランプの方が、クリントンより先にLGBTの平等を訴えていたというのは少なくとも嘘です。
それに、LGBT以外の点でも、女性、イスラム教徒、黒人、ラティーノ、アジア系……様々なマイノリティーに対して差別発言を繰り返しているトランプの方が「平等」のためになるっていうのは、ホント呆れます。
アンチLGBT団体に支持されるトランプ
トランプは、アンチLGBT団体に非常に人気です。
最近では、同性婚が可能になったのに、同性カップルに婚姻証明書を発行するのを拒んで最高裁にまで持ち込んだケンタッキー州のキム・デービスを讃える集会に出席したり、また極端にホモフォビックな言動で知られる牧師のジェームス・デイビット・マニングから支持表明されたりしています。
とにかく、動画は評価も低いし、こんな大嘘を真に受ける人はいないと信じたいのですが……
こんなニュースも見かけたので、暗澹としながら書いています。
トランプ以外の共和党候補はテッド・クルーズにしても、マルコ・ルビオにしても、ベン・カーソンも、ホモフォビアっぷりすごいですけどね……!
↑共和党候補の、LGBTに関するスタンスについて詳しく見たい人は、このページが参考になります。各候補者の過去の政策や投票行動、さらに、メディアでの発言などを追うことができます。