とある裕福なエリアで破格の不動産物件が出た。
小さなコンドミニアムではあるが、エリアの平均からしたら、明らかに安い。その代わり、売り手は現金一括で買えるバイヤーを求めているのだと言う。
実際に中を見ると、カーペットはボロボロで家全体が糞尿のような匂いがする。また、家具は一切なく、洗面台シンクから、トイレの便器まで持ち去られているような状態だった。これはリモデルに数万ドルはかかるだろう。道理で安いわけだ。
ひっきりなしに興味のあるバイヤー候補が訪れている中、かなり高めの価格で売れてしまうだろうとは思ったが、オファーを入れようと情報を探していると、隣の住民がエレベーターを下りてきた。アジア人の年配の女性で、こちらのユニットを伺うように見ている。
何か言いたそうなので、ニコッと笑いかけてみた。
「このコンド、住み心地よいですか?」
「あの物件に興味があるのかい?」
「そうです。まだオファー入れてないんですけど……立地がよいので気に入って」
「そう……」
「あの、あそこに住まれていた方はどんな方だったのでしょうか?」
エージェントからは、これは元の持ち主が亡くなり、裁判所が遺産の整理のために出しているのだと言うことは聞いていた。しかし、なぜあんなに荒れ果てた部屋になっているのだろうか?生活感があるようなないような、よくわからない部屋の異様な様子が頭の中を離れなかった。
住民は遠慮するような小声で、しかし早口に話しだした。