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アメリカで働くレズの徒然

おもちゃと多様性(1) 新しいバービー人形に見る「儲けるためにフェミニズムはもう無視できない」という現実

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マテル社が発表した新しいバービー人形のバラエティーが話題になっています(参考記事)。

バービーは単なる人形ではありません。アメリカでは3歳から12歳までの女の子のうち92%がバービー人形を所有したことがあるといい、ミッキーマウスなみの知名度を誇るこの人形の痩せた体型と、金髪、青い目は「アメリカの美の標準」のシンボルとであり、女性が社会で期待されていることを象徴する人形として、文化的な意味を持つに至っているのです。英語圏での「バービー人形」はもはや、1つの人形を意味するものではなく、一種のイディオムとして通用しています。

しかし、時代は変わりつつあります。キム・カーダシアンやビヨンセなどの、グラマラスな体型が美しさの標準として賞賛を浴び、また人種的な多様性を求める声も大きくなりました。

今回バービー人形は、オリジナル以外に、背が高いもの、ふっくら体型、小柄な体型などが用意されました。7種類の肌の色、22種類の眼の色、30種類の髪の色、さらに14種類の顔のタイプもよりどりみどりであり、これによって、バービーは現実に生きる女性を反映したよりリアルなものとなりました。

これまでしばしば、非現実的な美の標準を押し付けるものとして批判にさらされてきたバービーは雑誌『TIME』誌の表紙でこう宣言しました。

「私の体型についてとやかく言うの、もうやめてくれますか?」

マテル社の決断

今回のアップデートは、バービー人形の57年に渡る歴史のなかでもっとも大きな変更です。世界150カ国以上の国で1,200億円以上の売上を誇るバービー人形にこのような大きな変更をかけることは、マテル社にとって勇気のいる決断だったはずです。そこにはどんな背景があったのでしょうか?

近年、マテル社はバービー人形の売上の低迷に苦しんでいました。2012年から2014年にかけて売上は20%減少し、2015年もその傾向は止まりませんでした。

さらに、2014年には、1996年以来続いていたディズニーとのプリンセス人形の契約を2016年以降に最大のライバルであるハズブロ社に取られることになりました。600億円の契約を失ったマテル社は、路線変更を余儀なくしました。

今子供たちに大人気の『アナと雪の女王』のエルサは痩せ型の白人ではありますが、とても強いメッセージを持ち、王子を必要とせず強く生きる新しいタイプのプリンセスです。

「ミレニアル世代の母親は、今の顧客のなかではまだ少数派です。でも彼女たちこそが未来なのだということを、私たちは理解していました」2014年にバービーブランドの責任者になったエヴェリン・マツォッコ(Evelyn Mazzocco)は語ります。

変わり続ける社会のニーズに応え、人形ビジネスで生き残るために、マテル社は自社の看板娘である「バービー」を現代の消費者により強力にアピールするものへと進化させる必要があったのです。

マテル社では2015年の12月に、映画『グローリー/明日への行進(原題:Selma)』を監督したエイヴァ・デュヴァーネイ(Ava DuVernay)バージョンのバービー人形を発表しています。黒い肌にカーリーな髪のこのバービー人形はあっという間に売れ切れるという人気でした。

マテル社の社長でありCEOのリチャード・ディクソンは今回の発表について以下の様に述べています。

「55年以上に渡って、バービーは世界的な文化的アイコンであり、世界中の何百人の女の子にとってのインスピレーションとイマジネーションの源だった。バービー人形は、世界中の少女が囲まれている世界を反映している。彼女の精神に忠実でありながらも、時代と共に進化し、成長するバービーの能力こそが。バービーが世界1のファッション人形であることの理由なのだ」

マテル社は古くからのバービー人形を見捨てたわけではありません。「金髪・青い目・痩せ型」のオリジナルバービー人形も売り続けられる予定です。

資本主義に導かれる政治的正しさ

興味深いのは、マテル社の決定が、政治的な正しさだとかフェミニズムへの情熱によってなされたものではなく、結局は「営利に結びつく」という判断の元なされたことの強調です。

人々が多様性を当然のものとして受け止め、多様性が尊重される社会においては、企業が製品やサービスにおいてその多様性を反映させることは単に「政治的に正しいこと」なのではなく、端的に「利益」に直結することなのです。

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