#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

絲山秋子『ばかもの』再読した感想

ばかもの [DVD]



タイムラインがながーくて、ながーくて。出てくる人たち、みんなちょっとダメな人間なんだけど、それでも、「いい」んだって最後元気が出てくる。

あらすじ


『ばかもの』は、群馬県が舞台。大学生の、まだ10代の主人公ヒデが、バイト先27歳の恋人額子と、セックスに溺れている描写から始まる。年上で気の強く奔放なところのある額子にぞっこんだったヒデだが、ある日「結婚する」という額子に、公園の木に縛り付けられて、別れを告げられる。大学を卒業し、新しい恋人を作りながらも、アルコールに溺れていくヒデ。周囲からも孤立し、仕事も辞める。痛たたた。絶望の底で、ふとしたことからかつて会ったことのある額子の母親と再会する。額子は事故によって腕を失い、離婚していたのだった。ヒデは、入院して、断酒をし、額子に会いに行く……。出会ってから10年が過ぎていた。

感想


あらすじをこう書くと、何か冷静と情熱のあいだ的なドラマティックな小説を想像するかもしれないが、全然違いますっ!あーゆーわざとらしさはない。絲山秋子の筆致はあくまで淡々としている。ほとんど、アンチクライマックスと言ってもよいくらい。するすると書かれてるようで、実はしっかり構成があるので、最後はすとんとはいってくる。

セックスシーンも、ムラムラする感じ…というより、かなり散文的だし、「愛してる」とか、愛を叫んだらする描写もない。その代わり「ばかもの」というセリフが効果的に配置されている。ちょっと見、ロマンチックじゃないよね。でもさ、なんか愛なんだよな。心がポッとあたたまった。

誰かと1度目にうまくいかなくても、また出会って、やり直せる。絲山秋子の小説にはそんな救いがあるような気がする。片思いが実らなくても、不器用で、誰かとうまくいかなくても、腐れ縁のようにして縁はつながり続け、また、巡り合う。そんなことがあり得るし、そんなことをしてもよいのだ。  

アルコール依存の話も、身につまされた。最近、依存症についてよく考えることもあるが……飲まずにはいられない感じとか、周りとの軋轢とかがリアルすぎて。限りなく一人称で書かれている小説だがかろうじてヒデの三人称で書かれているので、主人公の愚かさや弱さが際立つ。   

でも、人は、皆愚かさや弱さを持っている。この小説に出てくる人、全員そうだ。そして…それはそれでよいのだと思う。

絲山秋子からは弱い人間とか不器用な人間、ダメ人間をそのままに受け止める愛というか受容を感じる。それが、なんとゆーか、そのことで露悪的になるのではなく、それが人間だよなという諦めというか悟りというか。それは作者自身も不器用なところがあるからではないか……と勝手に想像している。

内田有紀と成宮寛貴で映画化されたとのこと。観てみたい。

ばかもの (新潮文庫)

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