ティム・バートン監督の作品ということで、劇場で観たかったのだが、見逃してた!この度DVDでようやく観た。(ちなみにアメリカにいる人は携帯で727272に「SIGNUP」ってテキスト打つと、無料でREDBOX借りられるクーポンコードが送られてきます。今更DVDなんて借りねーわよって人も多いかもだけど、試してみてねー!)
【あらすじ】
内気で絵を描くのが好きなマーガレットは娘とともに夫の元を逃げ出し、サンフランシスコで知り合った「画家」のウォルター・キーンと再婚する。「パリで勉強した」というのが自慢のウォルターだが、自身の風景画より、マーガレットの描く「大きな目」を持った子供達の絵が人気なことに気づき、ひょんなことから「自分が描いた」ことにしてしまう。マーガレットの絵には二人の苗字となった「キーン」としか署名されていなかったのだ!
外交的で魅力的、さらに商売上手なウォルターは、「大きな目」の絵を売り込むことに成功し、人気はうなぎのぼり。オリジナル作品を購入できない人のために、大量生産のプリントを売ることもはじめ、二人は経済的にも裕福になっていた。セレブリティーとなり、有名人たちと華やかなつきあいをするウォルターに対して、狭い部屋で一日中絵を描き続けるマーガレット。まだ外で働く女性が少なく、女性アーティストの作品がまともに取り上げられない時代でもあった。「本当は自分が描いているの!」ということを娘にすら隠しているマーガレットはフラストレーションが溜まっていた。 ウォルターの方も、アート評論家から思うような評価が得られない苛立ちをマーガレットを娘にぶつけるようになり、マーガレットはとうとう別れを決意。娘を連れてハワイで新しい生活をはじめた。←二度目
しかし、ウォルターは離婚に応じる条件として、さらに絵を描くことや過去の作品の権利収入などを要求してくる。ハワイで「エホバの証人」を通じて友達を作り、「正直」であることの重要さに目覚めていたマーガレットは、地元のラジオ局で、「絵を描いていたのは自分だ!」と暴露。彼女の言い分を否定する有名人のウォルターを裁判で訴えることに。 裁判所でも、口八丁手八丁で陪審員を言いくるめようとするウォルターだが、裁判長は「ここで絵を描いてみろ!」と二人に命じる。腕が痛くて描けないと主張するウォルターと、サラサラと「大きな目」の絵を描き上げたマーガレット。裁判はマーガレットの勝利に終わったのだった。
この映画で一番面白いのは、なんといっても、この話が「実話」に基づいているということだろう。監督のティム・バートン自身が、マーガレット・キーンのアートのファンでコレクターでもあったところから、この企画が実現したらしい。 マーガレットさんは裁判で4ミリオンドルをゲット。今も元気で毎日絵を描きつづけているんだとか。
(ちなみに、ウォルターは最後まで「自分が作者だ!」と主張し続け、2000年に一文無しで亡くなったという)
信じられないような話だが、ウォルターがもてはやされていた頃のインタビューは今も残っていて読むことができる。
マーガレットを演じたエイミー・アダムスとマーガレットさん本人と写っている写真を見たけれど、マーガレットさんは「のほほん」とした感じの素敵なおばあさんだった。
■見どころ
悪役ウォルターの演技!わたしはエイミー・アダムスのファンなんだけど、この映画はウォルターを演じたクリストフ・ヴァルツの演技に一番引き込まれました。というのは、そもそもこの映画は実話で、実際の話をある程度知っていたため、「こいつが妻の作品を横取りしたとんでもない奴か!」という先入観を持ってしまっていたのですが、実はウォルターは意外なことに、序盤、かなり「愛すべきキャラ」として登場するんですね。そりゃ、もちろん「嘘つき」だったりする片鱗は見え隠れするけど、それでもはじめからマーガレットの手柄を自分のものにしようとしたわけじゃないよね、とか……。あと「アーティストになりたくて仕方ない」のに「才能がないからなれない」というウォルターの哀しみがねぇ。商業不動産の仕事で成功していながらも本当はずっと「絵で食べたかった」という感じが。あ、でもそういうホロッとさせるところだけじゃなく、ギョッとするくらい怖いところもちゃんと持っていて。魅力的だけど、根本的にはサイコパスっぽい危険なキャラを面白く演じてました。
エイミー・アダムスは少しナイーブだけど、芯をしっかりと持ったアーティスト役をとてもうまく演じていた。エイミー・アダムスには、去年『her/世界でひとつの彼女』とか『アメリカン・ハッスル』を観てから恋に落ち女優として注目しているんだけれど、彼女の演技力は本当にすごい!と改めて痛感。
あと、百合というのは無理があるかもだが、「母親と娘の絆」に軽く萌えた。
■アートの価値
それにしても「アートの価値」とは何だろうか?ウォルターがマーガレットの作品を自分のものだと偽っていたことは、間違いなく問題だ。しかし、市場価値としての「価値」だけ見るならば、マーガレットの絵の「価値」をあげるのにウォルターが貢献したことは確実だ(ゴーストライター問題で注目された佐村河内守も、あれだけセールスを上げられた理由は「作品」の力のみではなく、彼自身のキャラクターを含めた「ストーリー」によるところが大きいだろう)。
どんなに才能を持つアーティストでも、ぼんっと作品だけ出しても、評価されることは稀だ。作品がこの社会において認められるためには、適切な「ストーリー」と「営業活動」が必要不可欠であり、それを担当する者には適切な対価が与えられるべきである。だからこそ、今だって、「ギャラリー」「エージェント」「キュレーター」の存在は消えないのだ。その「対価」としてクレジットを盗むのはやっぱりありえないので、ウォルターのしたことが不当なのは確かだが、それにしても、彼の果たした役割には一定の評価があってもいいのかなーと思った。嘘なんてつかずに初めからマーガレットのエージェントになってればよかったのにね。
■マーガレット・キーンのアート
マーガレット・キーンのアートやプリントは、オンラインで買える他、サンフランシスコのギャラリーでも観ることができる。
Keane Eyes Gallery(要事前予約)