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アメリカで働くレズの徒然

アメリカ人がメキシコの歯医者に行く理由--広がる「メディカル・ツーリズム」

Tijauna-San Diego Borderwww.flickr.com

※国境の写真。ちなみに、右がメキシコ・ティファナ。左が、アメリカ・サンディエゴ

メディカル・ツーリズムとは

友人がサンディエゴ南部にあるメキシコ・ティファナの歯科医院に治療に行っていることを知った。アメリカの医療費は大変高価なため、外国に治療に行く患者は多いのだ。これをメディカル・ツーリズムといい、渡航国は、ドミニカ共和国ポーランドベルギー、スペイン、アルゼンチン、インド、タイ、マレーシア、コスタリカなど多岐に渡る。人々が求めるものは歯科治療、脂肪吸引や、不妊治療、整形外科手術、さらに「ガン治療」まで。アメリカ人にとってすぐ隣のメキシコは人気のメディカル・ツーリズムの渡航先である。

こんな記事も見つけた。

格安の歯科治療求めメキシコへ

医療費の差はどこからくる?

さて、メキシコとアメリカでは実際の治療費はどれくらい異なるのだろうか?無保険での医療費を調べることができるサイトOKCOPAYによると、アメリカでは「根管治療(ルートカナル)」の治療費は奥歯900ドルだというという(←これには「えっ、そんなに安い?という印象。ロサンゼルス地域に絞って検索すると平均1000ドルと出た。わたしも最近根管治療の見積もりを受けたがそれは1700ドル。また以前にはレントゲンやもろもろの経費込みで2000ドル近く払ったこともある)。これに対し、メキシコでは、奥歯の根管治療が一本2−300ドルで出来る。約1/3である。様々な記事を読むと、この価格差については1/5-1/8と多様な表記がなされているが、とにかく安いことは確かだ。中には10分の1だったという人もいる!

なぜメキシコではこんなに安く治療ができるのだろうか?メキシコは物価や人件費が安いことに加え、アメリカの歯医者が入っている医療過誤訴訟対策の保険や、巨額の学生ローンを払う必要がない、というのもその大きな理由だ。医学部に限らずアメリカでの高額な学費ローンは社会問題になっているが、メキシコでは歯科医の教育費には国の補助金が降りており、歯科医は卒業後、一年間無償のサービスを提供することで、国への「借金」を返す。

値段以外にもある魅力

メキシコの歯科治療は、そのお手頃な料金設定以外に、速さも魅力だ。メキシコの国境の街には、歯科技工士のラボなど歯科関係の施設が集中しており、数日間でクラウンを作ってくれるため、口の中を一気にすべて治療できる。

アメリカで不況が続くにつれ、安く速い歯科治療に惹かれ、メキシコまで行く患者は増えている。南カリフォルニア・アリゾナ・テキサスなど、メキシコ州境の歯科医は、メキシコの歯科医との競争にさらされている。「診断だけしてもらい、実際の治療はメキシコで」という患者も多いようで、怒っている歯科関係者も見つけたw

メキシコの歯科クリニックのウェブサイトはプロフェッショナルな美しい出来栄えで、サービスと料金は明確に提示されている。(←アメリカの歯科医で料金が明確に書いてあるところは少ない。さらに保険がいくらカバーしてくれるかもわからない!見積もりをとっても、「これはあくまでも見積もりです!保険がいくらカバーするかは最後の最後までわかりません。いざとなったら、あなたが全額払う必要があります!」みたいな文句がでかでかと書かれている)多くの治療は保険なしで現金の支払いだが、アメリカの顧客を掴みたいメキシコの歯科クリニックのなかには、アメリカの保険のインネットワークに加入したところまである!アメリカの保険でメキシコに行けるというのだ。

メキシコの歯科クリニックに連絡すると、返信はすぐに返ってきて、定期的に「その後どうですか?いつ予約を入れますか?」というようなフォローの連絡がくる。

アメリカ人にとってティファナなどは「危険」というイメージがあるが、それについても、国境が見えるくらいすぐ近くにクリニックを作ったり、空港からのシャトル送迎サービスや、近隣でのホテルや飛行機手配サービスなどもつけて、安全性をアピールしている。

クラウンや義歯が出来上がるまで数日間滞在しなければいけない場合は、観光しながら待つこともできる。まさにメディカル・ツーリズムは「旅行」なのである!特に年配の患者にとっては自分で運転や手配をせずにすべてを任せられるのは大きな魅力だろう。

メディカル・ツーリズムの危険

しかし、メキシコに限らず海外での医療には危険もつきものだ。その国の医療関係の規制を調べ、医師の教育レベルや、クリニックの衛生レベル、感染対策などを調べる必要がある。万一予後が悪かった場合の処置をどうするかということや、医療過誤が発生した時の救済を考えると、自国での治療の方が安心だと考える人も多いだろう(もっともアメリカに住んでいる日本人にとっては、アメリカがそもそも外国であるため、別にアメリカでの方がメキシコよりも制度や言語の理解がたやすいということもないかもしれない)。

どちらにしろ、背に腹は変えられないということで、リスクを承知でメキシコに行く人は後を絶たない。アメリカの「壊れた」医療制度と、信じられないほど高額な医療費について今改めてここで書くことはしないが、そんな社会で生きる人々にとって、「メキシコでの歯科治療」は極めて合理的な選択肢のひとつなのである。

友人との会話がきっかけで、メキシコでの歯科治療について調べていくうちに、さらに興味深いことが見えてきた。それについてはまた改めて書くつもりだ。

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