あなたは、まだ会ったこともない相手のために1億円以上の資金を送ることができるだろうか?
サラは、二度の離婚歴があるが、まだ真実の愛がどこかに存在すると信じてデートサイトに登録した。そこで、出会ったのが、とてもハンサムな「クリス・オルセン」と名乗る男だ。彼はイタリアのミラノ出身で、18年前にアメリカに引っ越してきたという。二人は意気投合し、毎日のように電話で何時間も会話を楽しい、愛を語り合うようになった。クリスはロマンティックで、甘い言葉をささやいてくれる。「早く一緒になりたいね」と語り合う二人だが、この十七ヶ月間の間、実際に会ったことは一度もない。
サラによれば、今クリスは南アフリカに閉じ込められている状況だ。南アフリカに出張に行った際、政府とのトラブルに巻きこまれたのだ。さらに、クレジットカードの盗難、テレフォンカードの購入、ホテル代の支払い、弁護士代、子守代……サラは、求められるままに、何千回も送金をした。しかしそのお金も盗まれてしまう!そして、「マネーロンダリング」といういわれのない罪でとうとう投獄されてしまったクリスのために、サラはアパートメントを売却。保釈金として請求された5000万円以上もの資金を送金した。クリスは、「自分が無事家に戻ることができたらこれらのお金は全て返す」と言っている。初めはイタリア訛りで話していたように聞こえるクリスだが、今ではまったく違う話し方でまるで別人のようだという。「多分、アフリカの話し方に馴染んだのかしら?」とサラは考えている。
サラ以外の人にとっては「絶対騙されてるでしょ!」としか思えないような状況なのだが、サラは95%の確率でクリスは真実を述べていると信じている。それでもやはり5%の疑いはあるようで、彼女は全米で人気のテレビ番組に出演することを望んだ……。
実はサラのようなストーリーは(その金額の巨大さを除けば!)珍しいものではない。アメリカには「オンラインデートの相手が会ってくれない」という悩みを解決するためのリアリティテレビ番組(Catfish: The TV Show (Series) | Season 3, Season 2 Episodes | MTV)が存在するくらいだ。(オンライン上で相手を騙して交際を続ける人は、スラングでcatfish(なまず)と呼ばれる)
catfishについては、以前もツイッターでつぶやいたことがある。
ネットでのなりすまし恋愛にハマってしまう人々を描いたMTVのCatfishって番組怖いけど面白い。
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
『被害者』の皆さん、catfishと対面すると、激おこでお前は頭がおかしいのか狂ってるのかとかまくしたてるんだけど、ここまでころっと非現実的な関係を恋愛だと信じこんでる自分の現実認識はおかしいとか思わないのな。スーパーモデルがど田舎に住んでる自分とつきあうとか…
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
騙された方が悪いと思うわけじゃ全くないんだけど…んー。なんだろ。例えばどう考えてもおかしいことを突きつけられても、信じこんでるのを見ると、そっちの心理の方が面白く興味深く感じちゃうんだな。
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
しかも、番組スタッフが電話すると明らかにネカマだったり(はじめ男の声で出て慌てて声高くしたり)、子供だったりすぐわかるのに、電話してるはずの被害者は気づかないの。
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
あと、被害者は皆『相手と気が合う』とか『あの人は素晴らしい人なの』とかいうけど、実際の相手に対面して、外見が写真と違うと、簡単に怒るの。話してた相手はその人なのに。二人の間のコネクションはディープなの!とか語ってたくせにさ。外見なんじゃん。それで写真使われた方と仲良くなりたがるの
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
大体、LAとNYとパリを行き来するスーパーモデルが、なんでアーカンソーとか遠いとこの人とわざわざネットで遠距離恋愛するのかとか思わないのかな?好きならビデオチャットくらいするだろとか、会いにいくだろとか。でもその疑いを全て越えて信じたくなる「願望」の力ってすごい。
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
ネットで好きになる気持ちはわかるだけに。人の弱さとか都合のよい願望とか、勝手さとか…そーゆーのを丸裸にして見せてくれるこの番組は、痛いけどなんか見てしまう。
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
ちなみに、なりすましアカウントをナマズというのは、魚を輸入する時に、通常不活発になってしまうがナマズをいれとくと魚は活動的なままというところから来てるそうだ。偽の恋愛でも、あることで、毎日がイキイキして、その人は元気になれる。
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
どう考えてもモデルのヘッドショットとか、透かしの入ったグラビア写真みたいのばっかりのプロフィールを見せられて、それが本物だと信じる気持ちは、私にはわからない。でもそれでも愛してるよとか好きだよとかベイビーと上手に言えば信じる人がいるのが現実で、だからこの世は面白い。
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
人は、皆、信じたいって思いを持ってるんだなって。裏切られたら悲しいんだって。それが確認できるという意味では、なんとなく救いを感じもする。
— イチカワユウ (@yu_ichikawa) October 29, 2013
サラという女性にしろ、catfishに出演する人々にしろ、古式専務にしろ……。
こうして都合のよい「大恋愛ストーリー」をすっかり信じこむ人のことを、わたしたちは笑えない。
わたしたちは、皆、世界を自分に気に入るやり方で解釈しながら生きている。そういう意味では、多かれ少なかれ、わたしたちは皆サラなのだ。今なら、よくわかるだろう。「あのドレスの色は白と金だ」とか「いや、いや、絶対青と黒だ」とか……。現実がどうであれ、一度思い込んでしまうと、そこから抜け出ることは本当に難しい。