#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

世界が夢の国ならいいのにね。映画『フロリダ・プロジェクト』がよすぎて3回観た

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法 デラックス版 [Blu-ray]

最近観た映画のベスト。ちょい古いのはわかってるんだけど紹介させて。そしてまだ観てない人は今すぐ観てほしい。

フロリダ・プロジェクト(原題:The Florida Project)もうこのタイトル自体がダブルミーティングで、色々考えさせられる。フロリダのなかでもこれはディズニーワールドのすぐ側にあるモーテルを舞台にした話。で、フロリダ・プロジェクトというのは、1965年に、ディズニーがフロリダにこんなテーマパーク作りますよ!った発表した時の仮プロジェクト名だったのね。

https://thefloridachannel.org/videos/reflections-walt-disney-announces-the-florida-project/

映画フロリダ・プロジェクトの中では、ディズニーという言葉は一回も出てこない。けど、画面の至る所からこの舞台はディズニーワールドのすぐ側にあることが伝わってくるし、それは豊かさそして格差の象徴としても機能している。何より、あの「マジカル」なラストシーンはディズニーという存在をわたしたちが知っているからこそ効果的に心を揺さぶる。あ、まだあらすじすら説明してないのにラストシーンの話をしてしまった。

もうひとつ、英語で「プロジェクト」という単語に、低所得者向けの公団住宅、の意味があるということ。これも別に明示されてるわけじゃないし、知らなくてもいいんだけど、projectって言葉の意味から想起されるものとしてわかっとくと色々つながる。

そう、この映画で舞台となる紫色のモーテルに住むキャラクターたちは、皆お金に困っている。シングルマザーだったり、娘が産んだ子供を引き取って一人で育てていたり。主人公ムーニーの母親は定職もなく、路上で香水を売ったりしながら、モーテルに住み着いたご近所さんがウェイトレスとして働くカフェで無料の食べ物をもらったり、フードバンクの配給に頼ったりしながら生活をしている。

ムーニーや友達たちは超悪ガキだが天真爛漫。演技してるように見えないほど自然で上手い。

ぶっきらぼうだがいい奴の管理人のビリー(ウィレム・デフォー)に見守られながら、日常が淡々流れていくが、確実に生活は限界に近づく。シングルマザーであるムーニーの母親ヘイリーは徐々に危険なビジネスに手を出していき、とうとうDCF(Department of Children & Families=日本の児相的な存在?)が訪れる。ヘイリーは査察に備えて部屋を片付け、ムーニーと思いっきり遊び、食べ放題のバイキングに連れて行くが、モーテルに戻るとDCFが待ってきた。

何の気なしに見出したのに本当よくて驚いた。

ボビーがいい。

雇われマネジャーボビー本部からの査察もあるし、自分でハンディマンみたいなこともしなきゃだし。時には怪しい奴をどやしつけて追い払ったり。けどそんなタフだけど優しい役をウィレム・デフォーがすごくよく演じてた。カッコよかった。

あと、母親の存在感も独特でいい。最悪の母親のはずなのに、憎めない。なんというか、ダメダメな決断ばかりしてしまっているのだけど、ダメなりに頑張って働いてたり子供を守ろうとしてるのはわかるし……でも、その努力の方向が間違ってるというか、どんどん破滅に向かってしまってるのが切ないんだけど、でも人間ってそゆとこあるよねって。ジャッジせずに、ただただキャラクターによりそうあたたかさな視線が好き。

何よりムーニーはそんなママでも大好きなんだよね。それがいいか悪いかは別としてね。価値判断は置いておいて。子供は小さい時は母親がホント大好き。母親の愛は無償だとかいうけど、本当は子供が母親に向ける愛こそ無償で無条件だと思う。少し大きくなれば、色々な事情も見えてきて、親を恨んだり反面教師にしたり、そんなこともあるかもしれないけど、ムーニーにとってはヘイリーはひたすら大好きなママで、世界はキラキラと美しい。あまりに過酷な現実の中で、悪ガキなのに、そんな無垢さを持ち続けてるムーニーを見てたら切なかった。

ムーニーも成長するにつれ色々なことを理解して、それと引き換えに世界にかかっていた「魔法」は溶けてしまうんだろう。6歳の見る世界だからこそ社会の歪みも大人の欲望も愚かさも絶望も全てキラキラと美しい。この子供の時にしかない感受性へのノスタルジアもあって泣けて仕方なかった。

そしてラストシーン。

映画ならではの表現だなと思った。音楽もそうだし。そうだよ。こういう表現ができるから映画ってやっぱり素晴らしいんだ。ディズニーランドってわたしは小学校の時から何度か行ってだけど、中学校の時かな?ディズニー行くたびに、まるで夢の中みたいにずっとキラキラして見えてた魔法が少し色褪せるのを感じたんだよね。もちろん大学になっても大人になっても、デートで行ったりいろんなシチュエーションで行って、やっぱりディズニーは大人にも夢を見させてくれる場所だなと思ってはいるけど、子供の頃本当に夢みたいにキラキラしてた、あの頃、何の心配もなく、ただただ毎日を全力で楽しみながら生きてた、あの世界の見え方はもう戻ってこない。ムーニーが見てる世界がわたしにはもう見えない。それが切なくてでも、想像はできるからわたしは泣いた。ムーニーも、ヘイリーも、スクーティーも、アシュリーも、ジャンシーも、皆、皆幸せになってほしい。

Fちゃんはこの映画が気に食わなかったみたいで、フロリダのモーテルに住む人たちのドキュメンタリーを観たらってリンクを送ってきた。仕事と家を失い、家族でモーテルに住みながらディズニーワールドで働く男のドキュメンタリー。んー。いや、そーゆーのじゃないって一瞬思った。わたしは映画を社会問題や政治と結びつけて観ることが多い人間だけど、この映画はちょっと違うアングルで刺さったんだよな。でも、結局はアメリカのセーフティネットのない社会で誰でも貧困に陥ることの危うさは、エモさで包まずに考えた方がいいのかもしれない。

https://youtu.be/65N5ouukO6w