#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

アフガンから亡命したゲイの回想ドキュメンタリー『FLEE』

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アフガニスタンからロシア、そしてデンマークに亡命したアミンが初めて語る過去、そして家族についてのストーリー。想像を絶する経験と癒しの体験が温かみのあるアニメーションと実写の融合した独自のタッチで描かれる。

サンダンスやトロント国際映画祭を始め様々な映画祭でも高い評価を得ているドキュメンタリー作品『FLEE』が公開されたので早速観てきました!ちなみに、エグゼクティブ・プロデューサーは、リズ・アーメッドです。

予告編

あらすじ

デンマークで彼氏と結婚寸前のアフガニスタン人アミル。これまで誰にも話したことのない家族の物語を語る。故郷カブールでの幼少期、ソ連が退避するに従いロシアに脱出し、腐敗した警官たちに賄賂を渡しながら生き延びた日々、既に脱出した兄のいるスウェーデンへの過酷な環境での密入国の試み……。そんな中で「なぜ家族の話を誰にもしなかったのか」「なぜ人を信じることが難しいのか」という、アミルの内面が徐々に明らかになっていく。

感想

面白かった…という他人事なセリフでは片付けたくない。非常に美しくパーソナルで深い物語です。この作品を観ることができて、本当によかった。

ドキュメンタリーなのに「アニメ」というのは、ちょっとおもしろいが、これは、本人たちの身元を明かさないために、こうしたのかもしれない。おそらく声は録音したものをそのままつかっているし、町並みや歴史的な映像は実写映像が使われている。また、ラストシーンで、二人の家からの風景は、アニメーションのあとに、同じ構図での実写映像が挿入され、アニメで表現されているこの作品が「実話なのだ」ということを繰り返し訴えかける。アニメ自体も骨太で荒削りといえばいえるスタイルなのだが、それが逆に力強さや生々しさを伝える。(ちょっと最近観た韓国映画『26年』の冒頭を思い出した。『26年』もフィクションではあるが、光州事件という韓国の歴史的な事実に基づいた作品だ。これについてはまた改めて書く)

家族、亡命、カミングアウト、パートナーシップ、キャリア…実は、この話は「過去の話」であるとともに、その過去が以下に「現在」のアミルに影響を及ぼしているか、という話でもある。

難民という極限の体験がいかにその後の人生に影響を与えるか。そして「家族について人に言えない」「人に自分の話をできない」「信じて話した相手からは、後にそのことが原因で脅される」などの経験を通じ、以下に他人を信じることが難しくなっていたかを痛感するアミル。

ドキュメンタリーの中で、アミルはパートナーのキャスパーとの間で仲違いをする。一緒に家を買って結婚したいと、物件めぐりをしていたが、実はアミルは、郊外に住むことは過去のトラウマを思い出すのではないかという不安を抱え、またアメリカでのポスドクの誘いを受けようとも思っている。

いつも恋愛よりも自分のキャリアを優先させてきた、というアミルが、最後に選んだ人生の選択。この映画は「Flee=逃げ出す話」でありながら、実はアミルが自らを見つけ出し、受容し、人をもう一度信じられるようになるまでの癒やしの物語なのだと思う。

評価

現在RottenTomatoで批評家スコア98%、オーディエンススコア88%を得ています。また、サンダンス映画祭の国際的ドキュメンタリー部門で優勝している他、各種映画祭で賞を獲得しています。日本での上映予定はわかりませんが、もしも映画祭や上映会などで観る機会があれば、ぜひご覧ください。おすすめです。

公式サイト

www.fleemovie.com