複数のクレジットカードの情報を一枚にまとめて管理できる「スマートクレジットカード」。数年前から複数の業者が出てきていますが、どうも、ぱっとしない。
常に二〇枚以上のカードを持ち歩き、レジでもたついてばかりのわたしは「スマートクレカ、超ほしい!」、と思っていたのですが、むしろ、全然普及しない。というか、手に入らない。そこで、色々調べてみたところ、「もはやスマートクレカは(始まる前から)終わっている」という話すら聞こえてくるしまつ。
というわけで、この「スマートクレジットカード」業界、ちょっと今一体どーなっちゃってんの?というのを、ちょっと調べてまとめてみました。
- Coin(現在はなし)
- Plastc(現在はなし)
- edge(準備中)
- Stratos(新規発行なし)
- ONE(現在はなし)
- SWYP(準備中)
- Fuze Card(販売中)
- なぜスマートクレジットカードはうまくいかないのか?
- フィンテック系のサービスは買収が多い!
- 参考記事
Coin(現在はなし)
初めに巨額の資金を集め、YouTubeで多くのビューを集めたスマートクレジットカードがコイン(Coin)でした。二〇一三年十一月に、プリオーダーを受け付けた時は、五万ドルの目標額(千人のバッカー)がたったの四七分で集まりました。
コインは初期モデルのカードを発送し、この成功は、その後、PlastcやSwypなどの類似サービスが生まれるきっかけとなりました。コインはシリコンバレーの有力なベンチャーキャピタルから実に一五.五ミリオンドルもの資金を調達しました。ファウンダーは元ペイパルで人脈も経験もあり、取締役にも素晴らしい人々が名を連ねていました。しかし、二種類のカードを作った後、コインは自社での運営を断念。技術をフィットネストラッカー大手のフィットビットに売却ました。フィットビットは、フィットネストラッカーで支払いができる技術の開発を進めていますが、スマートクレジットカードの開発は止めてしまいました。
Plastc(現在はなし)
二〇一四年一〇月にローンチされたのが、プラスチック(Plastc)です。プラスチックは、上記コインの強力なライバルと目されていました。 クラウドファンディングサイトのキックスターターで五.三ミリオンドルの資金を集め、その後プリオーダーで九ミリオンドルの資金を集めました。
十分な資金を集めたはずのプラスチックでしたが、一五五ドルのカードは、当初されていた発送時期から何回も延期され、バッカーたちを落胆させました。その後、プラスチックの技術は、二〇一七年一二月にEdge Mobile Paymentsに売却されました。プラスチック自体は、一枚のカードも郵送することなく、二〇一七年四月に倒産しました。ちーん。
edge(準備中)
https://www.edgemobilepayments.com/
プラスチックの技術を買収したエッジ・モバイル・ペイメントは現在「エッジカード」というスマートカードのローンチを進めています。バイオメトリクス認証、タッチスクリーンなどの機能が追加されています。エッジ・モバイルは、過去に類似カードを使っていた人への救済プログラムを提供しており、プラスチックカードをプリオーダーした人は、エッジカードに五〇ドルの割引、コインカードのオーナーだった人は、二五ドルの割引が可能になります。ただ、エッジもまだ一般販売されておらず、価格も不明。現在クローズドのベータプログラムに申し込むことができます(限定五〇〇名)が、いつ一般公開されるのは不明です。
エッジは、コインやプラスチックのようにプリオーダーの資金に頼るのではなく、エクイティの資金を使って開発しています。二〇一八年の第二四半期には発送することを目標にしていましたが、二〇一八年一〇月現在、どうなっているかはわかりません。ドキドキ。
Stratos(新規発行なし)
https://cardlabcards.com/#buynow
二〇一五年の五月に登場したスマートカードがストラトス(Stratos)です。いくつかのオールインワンカードを発送しましたが、一年も経たないうちに、経営が傾き、サーライトワン(Ciright One)に買収されました。現在もストラトスのウェブサイトは見られ、サポートは続けられていますが、新規カードの発行はしていないようです。プリオーダーをしたけれど手元に届かなかった顧客への返金は行われないそうです。こちらも実質終了したサービスとして考えてよさそうです。
ONE(現在はなし)
ギフトカードなどの残高が見られることを売りにした、「ワンカード」のウェブサイトは現在見られなくなっています。何があった……。
SWYP(準備中)
Qvivrという会社はミレニアルに向けたオールインワンカードを開発しています。現在はウェイトリストに登録することができますが、無事にローンチまでこぎつけるでしょうか?
Fuze Card(販売中)
今回調べたなかで、唯一現在もアクティブに販売を続けているスマートクレジットカードがこちらのフューズカードです。クラウドファンディングサイトのインディーゴーゴーで、二ミリオンドルを集めました。現在は磁気ストライプ式のカードを一二九ドルで販売しており、チップ式のカードは一九九ドルでもうすぐ発売予定とのことです。本社はアメリカ・カリフォルニア州にありますが、開発及び製造は韓国で行われており、韓国には店舗も構えているようです。
なぜスマートクレジットカードはうまくいかないのか?
コインの失敗の一つは、その技術のコアだった磁気ストリップがどんどんチップ(EMV)に入れ替わっていたからだと言われます。そして、今、クレジットカードの決済方法は、非接触(NFC)の方向にも進んできています。スマートクレジットカードのメーカーは、複数のカード情報をストアし書き換えるために、複数の技術に対応しなければいけないのです。これはコインのようなスタートアップ企業にとっては難しいことでした。※後発のエッジカードは、これら三種類の技術に対応したカードを開発しようとしています。
スマートクレカの問題は、それだけではありません。過去に発行されたスマートクレジットカードは、「使えないことが多い」「セキュリティ上の不安がある」などの信頼性に関する苦情が多く寄せられていました。支払いやファイナンスという重要な機能を担う技術がこれでは、ちょっと心配ですね。
また、スマートクレジットカードには、「コストがかかる」というビジネスモデル上の限界もあります。スマートクレジットカードのライバルは、銀行やクレジットカードの発行するカードです。それらは無料で、確実に使えるものです。消費者が、余分な百ドル、二百ドルを払ってスマートクレジットカードを手に入れ、多数のカードを入力し、充電し、メンテしなければいけない理由はどこにあるのでしょうか?もちろん「沢山のカードを持ち歩きたくない」「財布をスッキリさせたい」というニーズはあります。しかし、消費者はそのニーズを満たすために一体いくらまでなら支払ってくれるのでしょうか?
また、スマホで支払いができるアップルペイなどのサービスが広まるにつれ、「複数のクレジットカードを一枚に」という、かつて革新的に見えたサービスは、実は古臭いものになってきてしまっているのかもしれません。
一つ、ビジネスモデルの面で面白いなと思っているのは、Dynamics Wallet Cardです。
機能的には、上のスマートクレジットカードと同様ですが、Dynamics Wallet Cardは最終消費者に直接販売するB2Cサービスではなく、カード発行者に向けてのB2Bサービスです。なるほど。なんかウェブサイトだけ見るとしょぼそうですが、とりあえずウォッチしてこうとと思います。
フィンテック系のサービスは買収が多い!
わたしは、比較的新しいサービスが好きで、ペイメント系のアプリなどをよく使う方です。しかし、このようなスタートアップ系のサービスは、度重なる買収や社名変更が多く、消費者としては、ついていくのがぶっちゃけ大変です。そして、大手に買収された後は、もともと気に入っていたサービスが立ち消えてしまうことも少なくありません。
例えば、わたしが昔使っていた支払いアプリの「レモンウォレット」これは、その後ライフロック、ミントビルズ、と買収されまくり、インテュイット社の傘下になった今では、パーソナルファイナンス管理アプリの「ミント」に一本化ということで、様々な支払いを一箇所でできる「ミントビルズ」は消滅してしまいました。おいおい。サービス終了させるくらいなら買収するなよーとか思いますが……。現在は、仕方なく「プリズム」という支払いアプリを使っています。
今回のスマートクレカの顛末を調べたりしても、結構「お金払ったけどカードもらえなかった」というケースがあるみたいなので、フィンテック系のガジェットに「プリオーダー」という形でお金を入れるのは、リスクが高いなーと改めて思いました。ま、それでも新しいサービス使ってみたいんですけどね!
参考記事
以下の記事を参考にしました。
Plastc, Coin, Stratos and The Failure of Smart Credit Cards
"Smart" credit cards may be over before they started - CBS News