#あたシモ

アメリカで働くレズの徒然

女性監督・女性メインキャストの傑作映画を独断と偏見でまとめてみたよ!

Xで「女性監督で女性主演の映画がつまんない」みたいな話が流れてきた。どうやら『マダム・ウェブ』の酷評を受けての話らしい。

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ただ、これって偏見だよね。そもそもこの人まだ『マダム・ウェブ』観ていないと思うし。『マダム・ウェブ』は確かにコケたけれども、それは別に「女性監督だから」じゃないと思う。多くの人が指摘して反撃している通り、2023の大ヒット映画の一つは制作も監督も主演も女性の『バービー』だ。過去の映画を観ても、女性監督・女性主演だから面白くないなんていうのは、端的に嘘だ。まあ個人の趣味もあると思うが、女性監督が手掛けた作品で素晴らしい作品は多くある。Xで #女性監督・女性メインキャストの傑作映画 というハッシュタグがあるので観てみてほしい。

と同時に、ハリウッドにおいて女性監督が男性監督と同様のチャンスに恵まれてきたかというと決してそうではなかった。だから、「女性監督が手掛けたヒット作が少ない」というのは、数字だけ見れば事実なのである。

ハリウッド業界と女性

映画業界に女性が存在しなかったわけではない。サイレント映画の時代から女性監督は存在した。しかし、巨額の予算のある大作などはなかなか女性監督が起用されづらかったと言われている。2019年のデータでは、映画ファンの50%が女性であるにも関わらず、女性監督はたったの10.7%、女性脚本家は19.4%、そして女性プロデューサーは24.3%、また作曲担当は6%に過ぎないというデータがある。また今日にいたるまで、アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞したのはキャスリン・ビグロー(『ハート・ロッカー』2009)、クロエ・ジャオ(『ノマドランド』2021)、ジェーン・カンピオン(『パワー・オブ・ザ・ドッグ』2021)の3名しかいない。*1

キャスリン・ビグロー監督とソフィア・コッポラ監督

キャスリン・ビグロー監督は、『ハート・ブルー』(1991)、『ハート・ロッカー』(2008)、『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)などの伝統的には男性中心とされたアクションや戦争ジャンルで活躍した。ゼロ・ダーク・サーティは興行成績も132ミリオン以上あげている。『バージン・スーサイド』(1999)でデビューし、全世界で10ミリオンの興行成績をあげ、2003年に『ロスト・イン・トランスレーション』で118ミリオンの売り上げたソフィア・コッポラも欠かせない。ガーリーなセンスで、どちらかというとメインストリートというよりサブカルな登場の仕方だったが十分大作を作っている。

ビグロー監督はジェームス・キャメロン監督の元妻であり、ソフィア・コッポラはフランシス・コッポラの娘である。この時代は大物とのコネクションを持つ女性監督が活躍した時代なのかもしれない。

大作に進出し始めた女性監督たち

ハリウッドでのジェンダーギャップが取りざたされるうち、徐々に女性監督による高予算の大作も増えてきた。マーベルやDCなどのスーパーヒーローものでも活躍するようになっている。例えば…。

『トワイライト〜初恋〜』2008年(キャサリン・ハードウィック監督)408ミリオン

トワイライト〜初恋〜 (吹替版)

ミステリアスでセクシーな吸血鬼に恋をする女子高生……というめちゃくちゃべたな展開でありながら大ヒットしたトワイライトシリーズ。クリステン・スチュワードの出世作でもあります。

『フィフティー・シェイズ・オブ・グレイ』2015年(サム・テイラー=ジョンソン監督)569ミリオン

フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ (字幕版)

まるでポルノ!というほどセクシーな描写が話題になった作品。皮肉なもので『マダム・ウェブ』で主演を務めたダコタ・ジョンソンは、女性監督で大ヒット映画にも出ていたわけです。

ここらへんは「恋愛もの」とっていう感じだがディズニープリンセスや、スーパーヒーローものもどんどん出てくる。

『メリダとおそろしの森』2012年(ブレンダ・チャップマン監督+マーク・アンドリュース監督)538ミリオン

メリダとおそろしの森 (字幕版)

ピクサー作品で、アカデミー賞では長編アニメ映画賞を受賞しました。原題はBraveとシンプルなのに、邦題だと長くなるんですよね。

『アナと雪の女王』2013年(ジェニファー・リー監督+クリスバック監督) 1,397ミリオン

アナと雪の女王 (字幕版)

こちらもFrozenが邦題だと長くなってますが。もうこの際よしとします。世の中のクィアがむせび泣いた『Let it go』という名作カムアウトソングを生み、「真実の愛」が恋愛の愛ではない、というAロマ的解釈もできるクィアな作品です。このあたりは上のメリダと引き続き、「共同監督」という形で女性監督の活躍の場が広がってきたのかもしれません。

『アナと雪の女王 2』2019年(ジェニファー・リー監督+クリスバック監督) 1,453ミリ

アナと雪の女王2 (字幕版)

アナ雪の続編。興行成績えぐいです。今後アナ雪3がでるのかどうかわかりませんが、もし出たとしても、もう日本語版が神田沙也加ちゃんの歌声で聴けないと思ったら悲しくてたまりません。

『ワンダー・ウーマン』2017年(パティ・ジェンキンス監督) 823ミリオン

ワンダーウーマン(字幕版)

全米がときめいたガル・ガドット主演のこれ。イスラエルの件がなければ全力で推せるのですが……。

『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(キャシー・ヤン監督)2020年121ミリオン

ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY(字幕版)

最近のハリウッドにおける女性活躍の鍵の一つがマーゴット・ロビーだと思ってるんです。女優としてもノリに乗っているのはもちろん、彼女はプロデューサーとしても大きな影響力を持ち始めていると思います。ハーレイクインはその一つで、主演であると同時にプロデューサーの一人でもあったマーゴットは女性をメインにしたチームを作りたいと考え、脚本家のクリスティーナ・ホドソンに続き、当時まだ長編映画の経験が乏しかったアジア系であり女性のキャシー・ヤン監督に声をかけたおちうのです。ヤン監督は「5年前だったらこんな機会は与えられなかったと思う」と語っています。他のより経験豊かな監督たちと共に監督のポジションを争ったあげく、ヤン監督の解釈やビジョンが認められBird of Preyの世界観は実現したのです。

『ムーラン』(ニキ・カーロ監督)2020年 69ミリオン

こちらは男性に扮して戦う少女ムーランのアニメ映画の実写版。パンデミックと重なってしまったのと、主演のリウ・イーフェイが、中国政府よりの発言を繰り返し批判を浴びたことで映画にもケチがついた気がします。ハリウッドにおけるアジア系作品は応援したいのですが、『ムーラン』は観ていません。

『ブラック・ウィドウ』( ケイト・ショートランド監督)2021年 379ミリオン

『アベンジャーズ/エンドゲーム』であまりにも悲しすぎる死を遂げたことでsaebou先生の「冷蔵庫の女」という概念も一気に広まった気がするが。

saebou.hatenablog.com

このブラック・ウィドウの前日談である。フローレンス・ピューが「妹」として登場し、強い女のシスターフッドを見せてくれる。面白かったのだが、内容ちょいと忘れ気味。

『ワンダー・ウーマン 1984』2020年(パティ・ジェンキンス監督)169ミリオン

ワンダーウーマン 1984(字幕版)

前作ワンダーウーマンから66年後の新たな冒険を描いた作品。前作でも思ったんだけど、恋愛要素いらないんだよな……。

『エターナルズ』2021年(クロエ・ジャオ監督) 402ミリオン

エターナルズ (字幕版)

『ノマドランド』でアカデミー賞を受賞したクロエ・ジャオ監督は、女性であると同時に中国系というハリウッドにおけるダブルマイノリティでもあるが、非常にアメリカ的なアベンジャーズシリーズを手掛け、そこにジェンマ・チャン演じるセルシを主役に据えた。またゲイのスーパーヒーローを登場させるなど、多様性を自然に取り入れた。一部ヘイタ―からのバックラッシュがあったものの立派にスーパーヒーローものとしてヒットさせた。

『私ときどきレッサーパンダ』2022年(ドミー・シー監督)21ミリオン

私ときどきレッサーパンダ (吹替版)

こちらは中華系カナダ人の女性監督ドミー・シー監督の作品。監督自身を思わせるカナダの中華系家族の少女の思春期をユーモラスに描いた作品はベイマックスと並び、北米で育つアジア系の子供にとって非常に重要な作品となっただろう。シー監督はこの作品の前にも『Bao』という中華まんを通じて母親の愛を描いた短編が『インクレディブル・ファミリー』の前座で上映され高い評価を受けていた。

『バービー』2023年(グレタ・ガ―ウィグ監督) 1,445ミリオン

バービー

言わずとしれた2023年の大ヒット作。バービー。マーゴット・ロビーがこのプロジェクトは絶対成功する!とワーナーブラザーズや監督を説得しj実現に漕ぎつけ、本当に1ビリオンに達した作品。

しかし、アカデミー賞のノミネート祭りとなった『オッペンハイマー』とは対照的に、『バービー』はアカデミー賞の作品賞や監督賞などの主要部門では無視され、ノミネートすらされなかった。そのため助演男優賞にノミネートされたライアン・ゴズリングが声明をだし、「グレタ・ガーウィグとマーゴット・ロビーなしには本作は存在しなかった。2人は、この世界中で称賛された歴史的な作品の一番の貢献者です」とクレジットを与えた。グラミー賞ではJay-Zが黒人アーティストへの冷遇を批判したが、アカデミー賞でもまだまだ女性監督や製作者への冷遇はなくなっていないことの表れかもしれない。

 大作だけじゃない、女性監督・女性メインキャストの名作。

以上のリストからは年代が最近になればなるほどインフレーションに伴う物価上昇によって興行収入が膨らんでいる現象はあるもの、ディズニーやマーベル、DCの大作映画にも女性監督が起用され始めているのが見て取れる。

しかし、いわゆる大作でなくても素晴らしい作品は多くある。最近では、特に女優からプロデューサーや監督に転身し、女性への敬意に満ちながら同時にエンタメ性も高い野心的な作品を作っているケースが多いように思う。以下では、そんな少し小粒だが素晴らしい作品を紹介する。

燃ゆる女の肖像(2019)

燃ゆる女の肖像(字幕版)

セリーヌ・シアマ監督。個人的には、ベストです。第72回カンヌ国際映画祭で脚本賞とクィア・パルムの2冠に輝いた……とかぶっちゃけそういうのどうでもいいんだよね。

まだ観てない人いたら、今すぐに見てください。女性監督の作品という枠組みでもそうだし「クィア作品」としてもサイコーです。もっというならそういうのなしでもとにかく素晴らしい。ケミストリーってこういうことをいうんだよな。興行成績は10ミリオン。もっと売れてもよかったと思う。

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019)

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー(字幕版)

オリヴィア・ワイルドが長編映画監督としてデビューした青春映画。主人公の一人がレズビアンというのもあるが、わざとらしくなく、非常に自然に「今どきの高校生」の姿を描いている。興行成績は24ミリオン。

『ドント・ウォーリー・ダーリン』(2022)

ドント・ウォーリー・ダーリン(字幕版)

こちらもオリヴィア・ワイルド監督の野心作。50年代風のレトロで完璧な社会の裏にある現実とはを美しく不気味に描き、また自らも出演している。無名の若手俳優たちを起用したブックスマートとは異なり、こちらはフローレンス・ピュー、ハリー・スタイルズ、クリス・パインなど大物が多数出演。興行成績は87ミリオン。

『レディ・バード』(2017)

レディ・バード (字幕版)

『バービー』や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガ―ウィグの出世作であり、自伝的作品でもある。名作。サクラメントに住む女子高生のレディー・バードが「この田舎町を抜け出したい」と鬱屈した気持ちを抱えながら、決して裕福ではない両親、バークレーをでたのに就職できない兄などとの関係に悩みながらも友情や恋愛を通じて成長していく物語。こう書くとつまんなそうなのだが、超絶面白いです。特に「地方出身の女の子」にはぜひ見てほしい。お涙頂戴系の感動ではないのだけど、じわじわ来る。本当に好きな作品。ガーウィグ監督はここで出演したシアーシャ・ローナンとティモシー・シャラメが気に入ったらしく、『わたしの若草物語』にも起用しています。

TITANE/チタン(2021)

TITANE/チタン [Blu-ray]

ジュリア・デュクルノーが脚本・監督を務めた作品。カンヌ国際映画祭でジェーン・カンピオン以来、最高賞であるパルムドールを受賞した史上2人目の女性監督となり、同時に女性初の単独受賞者ともなった。激しい暴力性をはらみながらも、最後は不思議な感動に包まれる作品。興行成績は4.9ミリオン。

ウーマン・トーキング 私たちの選択(2022)

ウーマン・トーキング 私たちの選択

サラ・ポーリー監督のウーマン・トーキングは、もしかしたら「女性監督、女性メインの出演者」というイメージから多くの人がイメージする作品かもしれない。とあるキリスト教のコミュニティで女性たちが繰り返し寝ている間にレイプされる。男性たちはそれを否定するが、女性たちは、「とどまり何もしない」「とどまり戦う」「立ち去る」の3つの選択肢のどれを選ぶべきか話し合い投票が始まる。ルーニー・マーラとベン・ウィショーの演技が素晴らしい。アカデミー賞では作品賞は逃したが脚色賞を受賞。興行成績は9ミリオン。

……という感じで、まだまだ挙げられそうですが、まずはここらへんで。

また思いついたら追加していきます。

またあなたのお勧めの「#女性監督・女性メインキャストの傑作映画」があれば、ぜひコメント欄やXで教えてください。

※記事中の興行収入はBox Office Mojoを参考にしました。 https://www.boxofficemojo.com